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研究成果
 
【活動報告】
スペイン・マドリッドで開催された第29回レーザーと物質の相互作用に関するヨーロッパ会議(XXIX ECLIM)に出席して
大道博行 (独)日本原子力研究開発機構量子ビーム応用研究部門

   本会議はレーザー核融合を始めとした高出力レーザーと物質の相互作用全般を対象としているが、最近は発展の著しい超短パルス(時間幅1兆分の1秒以下)レーザー光とそれにより生成される相対論的プラズマ(レーザー電場により電子がエネルギー数百キロ電子ボルト以上の相対論に従う電子となる)に関連した諸現象の学術的研究、それを用いた利用研究も多く取り上げられている。その中でもレーザー駆動粒子線源は本会議の中心的話題の一つであった。粒子線としては、電子、陽子、各種イオン線があるが、本会議では主として陽子線についての研究報告があった。英国ラザフォード研のNeely氏はエネルギー300mJの超短パルスレーザー光を厚さ20−30ナノメートルの金属薄膜に照射することにより最大エネルギー4MeV、レーザーエネルギーの1.2%が陽子線のエネルギーに変換されたと報告した。レーザー光はプラズマミラーで反射させ主パルスの前の低強度プリパルスを除去することにより、このような極めて薄い金属膜の形状を保持したまま高強度レーザー光の照射が可能になった。これにより高効率で高エネルギーの陽子線発生が可能になった。レーザーの大型化によらず、小さいレーザーエネルギーを保持しつつプリパルスを極度に抑制するなど、超短パルス光の高性能化(クリーンパルス化)を図ることにより、発生イオンビームの高性能化を図ることが主流になってきた。多くの粒子線の利用研究に必要となるエネルギーの準単色化技術も進んできた。ドイツのグループから、@レーザー照射により生じる磁場を粒子線に対するレンズとして利用し、アパーチャーと組み合わせて単色化する方式の実験的実証(デュセルドルフ大学)、A原子力機構の研究者らの提唱した2重層ターゲットを用いた単色化の方式の実験的実証が報告された。(イエナ大学)Bさらにベルリンのマックスボルン研究所からは重水素ドロップレットを用いたエネルギー2MeV近辺の準単色重水素線発生に成功したとの報告があった。この研究所ではダブルCPA方式等により高いプリパルス抑制比のレーザーシステムを有しており、ユニークな研究が種々行われている。ここのドロップレット装置はEUVリソグラフィー用光源開発の中で開発したものを用いていると思われる。米国ロスアラモス研を中心としたグループからは金属ターゲットを加熱し水素を除去したものに炭素を付加したターゲットを用いた単色炭素線の実験的実証が報告された。英国のクイーンズ大学のグループからは発生陽子線をレーザー生成プラズマ中の電場分布測定に用いた実験結果の報告があった。これら講演の中で陽子線開発の目標として、エネルギー200MeVに至る医学利用と、10MeV程度の高速点火核融合とが紹介されている。前者に対しては、粒子数はほぼ満たしている(10の10乗個)がエネルギーがはるかに及ばないと評価されていること、後者ではエネルギーはほぼ満たしているものの、レーザーからの変換効率が要求値にはるかに及ばないことが指摘されている。今後研究の方向、課題が大きく2つの方向に向かってゆくことを示唆している。現在実施中の原子力機構と大阪大学レーザー研の連携融合研究の粒子線加速研究は、それぞれの組織の研究目標に従ってその両方をにらんでの研究推進になると思われる。

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写真: マドリッドの工科大学(Escuela Tecnica Superior de Ingenieros Industriales)内のポスターセッション会場にて(左側が筆者)。大学と技術史博物館が合体したような建物になっている。ポーランド軍事工科大学(Military University of Technology)のバートニック博士(右側)と並んで
   ユニークなイオン計測の報告もあった。英国ラザフォード研のグループからシンチレーターと高感度CCDを用いたオンラインプロトン測定の紹介がポスターセッションであった。責任者のNeely氏はこのような計測器は個別の研究所が個々に開発していては、時間も資金も無駄であり、分担協力して開発できないだろうかと述べていた。実際ヨーロッパではレーザー装置の間を研究者が自由に往来し装置の共有化、知見の共有化が著しく進んでいる。多国にまたがるグループの共同研究が日常化している中で、優れた成果もどんどん得られつつある。このような国際スタンダードにしっかり喰い込んで研究推進を行うことの重要性を改めて感じさせられた。
   筆者は、上記連携融合事業の紹介も含んだ "Development of compact laser driven ion source for applications"と題する発表を行った。その中で陽子線の単色化技術である位相回転法の原理実証実験、陽子線のオンラインリアルタイムエネルギー分布測定を可能にした飛行時間測定の開発に関する報告を行った。これら成果は京都大学、電力中央研究所と共同で得られたものである。また発表の中でレーザー駆動イオン線の医学利用を目指した国際共同研究を呼びかけた。これを受け、講演後種々の議論を行うことができ、極めて有意義な会議参加となった。
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