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【活動報告】
出張報告:アメリカ物理学会プラズマ分科会年会(DPP06)参加
およびネバダ大学リノ校訪問
大阪大学レーザーエネルギー学研究センター 岡野泰彬

APS, DPP06参加
   平成18年10月30日−11月3日の日程でフィラデルフィアにて開催されたアメリカ物理学会プラズマ分科会の年会に参加した。筆者は開催2日目の31日より参加したが、主に連携融合研究に関連のあるレーザー粒子加速やX線発生に関する発表を中心に聴講してきた。全体的な印象としてはレーザー航跡場をはじめとした"単色"電子やプロトン加速に関する発表が多数を占めており、X線はどちらかというと少数派のようにも感じた。ここでは、これらの中から連携融合研究に関連する発表をいくつか紹介したい。
   ひとつは、テキサス大学オースチン校のM. Downer氏による講演で、Frequency Domain Holography法を用いたレーザー航跡場計測を挙げたい。これはHeガスジェット中に誘起された航跡場を干渉計測により観測するもので、ポンプ光の前後に参照光と診断光を同軸入射し干渉像を取得することで、その位相シフト(電子密度を反映)計測する。特に、チャープパルスを用いて計測を行い、各波長の干渉情報を時間的な変化として捉えているところが特徴で、シングルショットでレーザー航跡場を可視化している。解析により得られた位相シフトの時間変化は明瞭に航跡場による電子密度変化を示しており、シミュレーション結果との比較を含めてインパクトのある講演だった。この結果は11月号のNature Physicsに掲載される予定なので興味のある方はそちらの方を参照して頂きたい。
   一方、X線発生に関する研究として、ローレンスリバモア国立研究所(LLNL)のH.-S. Parkらから、高エネルギー密度実験におけるイメージング計測用のレーザー誘起Kα線源研究について発表があった。大型レーザーを用いた実験で、各種金属ターゲットより放出する15−100 keV領域のKα線計測と点投影法によるメッシュ像計測に関して系統的な研究を行っていた。特に、高エネルギーX線の計測手法は、本連携融合研究においても有用な情報となった。
   また、LLNLのH. Chen、S.C. Wilksら(発表はネバダ大学リノ校のA.J. Kemp)からは、ピコ秒ストリークカメラによるTi Kα線発光の時間波形計測についてポスター発表があった。大型レーザーを用いて、パルス幅0.5 ps、集光強度1017-19 W/cm2のレーザー照射条件で実験を行っており、Ti Kα線の発光は照射後10−20 ps後にピークをもつ時間波形を示していた。一般に、比較的小型なテーブルトップレーザーによるX線発生ではパルス幅が数ピコ秒以下であることを考えると発光時間波形が大きく異なっており、Kα線放射機構や高輝度単色X線源研究の観点から興味深い発表であった。
   筆者は、"Short-pulse lasers and fast ignition"のセッションにて、フェムト秒レーザー誘起X線を用いた時間・空間分解計測への応用として" Space- and time-resolved soft x-ray absorption spectroscopy of aluminum plasma induced by femtosecond-laser ablation"という題目で発表を行った。

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写真1:(左)会場となったフィラデルフィアマリオット。(右)会場の一風景。

ネバダ大学リノ校訪問
   フィラデルフィアからの帰路、ネバダ大学リノ校物理学部教授のRobert Mancini氏を訪問し共同研究に向けたディスカッションおよび装置の見学を行った。リノは小規模ながらカジノの町で、カジノのホテルが群在するダウンタウンから2 kmほど離れた丘陵地帯にリノ校は位置している。また、砂漠気候であるが標高が1000 m以上と高地にあり、キャンパス内の木々が黄色く紅葉している様子から四季があることが伺えた。
   Mancini氏の案内により、リノ校のキャンパスから車で15分程離れたところにある物理学部付属施設であるNevada Terawatt Facility(NTF)を訪れた。NTFではDirectorであるThomas Cowan氏の案内により、各装置について現在の稼働状況等について説明を受けた。ここにはZebraと呼ばれる2 TWのパルス出力を持つ大型のz-pinch装置や、CPA型の短パルス・高強度レーザー装置であるTomcat laserやLeopard laserがあり、z-pinchと高強度レーザーを組み合わせたユニークな実験が可能である。Tomcat laserは、パルス幅700 fs、エネルギー10 Jの10 TWクラスのレーザーシステムである。一方、Leopard laserは現在整備中ではあるが、今後、NTFでのレーザープラズマ実験では主力装置となる装置である。仕様としては、パルス幅350 fs、エネルギー25 Jの100 TWクラスのレーザーシステムで、パルスコンプレッサーと実験チャンバーはTomcat laserと共有したものとなっている。NTFのWebページにも紹介されているように、Leopard laser はプレパルスとのコントラスト比の高い光パラメトリックチャープパルス増幅(OPCPA)化を計画しているが、当面は再生増幅器(RGA)で立ち上げを行い来年1月中の稼動を予定しているようである。
   Leopard laserや実験チャンバーを含めNTF内の装置はまだまだ立ち上げ段階にはあるが、研究者との交流を含め施設や装置の状況を直接見学することが出来、共同研究を行う上で有用な訪問となった。

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写真2:(左)NTFの外観。(右)NTF実験チャンバー前にて(左よりCowan氏、筆者、Mancini氏)。写真左側の部屋にLeopard laser装置、チャンバー奥にパルス圧縮器、また右側にはZebra z-pinch装置が設置されている。
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