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【活動報告】
活動報告: 連携融合(エキサレーザー基盤技術開発)に関する 情報収集及び基盤技術開発おけるレーザー装置の見学 (英国における高強度レーザー開発状況)
日本原子力研究開発機構 岡田大

出張期間:平成20年1月9日−11日,14-15日
出張先:イギリス・オックスフォード,ベルファースト

   2008年1月9日〜11日まで、英国オックスフォードにあるラザフォードアップルトン研究所に訪問した。当施設内のCentral Laser Facilityでは、高繰り返しPWレーザー(Astra、Geminiプロジェクト)、PWシングルショットガラスレーザー(Vulcanレーザー)、Vulcanレーザーを用いた10PWのOPCPAプロジェクトに関する開発状況やレーザー技術に関する情報収集を行った。
   Astraレーザーは、繰り返しの10Hzのチタンサファイアレーザーであり、Geminiのフロントエンド部として機能している。Astraの発振器はFemtolasers社のFemtoPowerを用いており、パルスエネルギー1mJ、繰り返し1kHz、パルス幅30fsのスペックを有するモードロックチタンサファイアレーザーである。発振器直後に配置されたポッケルスセルにより、10HzをAstraのシードパルスとして、残りの990Hzは他のアプリケーションに用いるために分配している。Astraのシードパルスはポッケルスセルで分周された後、ストレッチャーによりナノ秒程度まで伸張され、マルチパス構成のチタンサファイア前置増幅器と主増幅器により、パルスエネルギー1.5J程度まで増幅される。
   増幅されたジュール級のパルスはGeminiのシードパルスとして、Geminiのマルチパスチタンサファイアブースター増幅器に伝送される。Geminiのブースター増幅器では、チタンサファイア結晶の熱レンズ効果の補償と像転送のために、各増幅パス後にイメージリレーが構築されている。また、ブースター増幅器の励起レーザーはフランスのQunatel社製の高繰り返しガラスレーザーである。増幅器の段数を増加させることにより、1段ごとの励起エネルギーを抑えているので、ガラスレーザーでありながら高繰り返し動作が可能である。ガラスレーザー最終出力は25J・2ビームであり、20秒に1発のショットが可能である。Astra、Geminiにおいても2ビームのデザインであり、現在1ビーム分の増幅系はほぼ完成しており、レーザーのスペック計測等が行われている。Astraレーザーの出力パルスにおける時間コントラストは10-7程度であり、プラズマミラーを用いる事によってコントラストを10-10程度まで向上させて、プロトン発生実験や電子加速実験に用いられている。
   1970年代に建設され、Tsunamiを発振器とした大型のPWガラスレーザーのVulcanレーザーでは、午前7時半からPC制御でフロントエンド部の自動アライメント制御装置が立ち上がり、午前9時から〜10時の間にレーザーオペレーターによるOPCPAフロントエンド部のアライメントと、後段増幅器の微調整が行われ、午前10時過ぎから30~40分毎にPWパルス(500J・500fs)がショット可能となっている。ディスク型増幅器のレーザー媒質は楕円形型の燐酸ガラスであり、両側からフラッシュランプによって励起され、ショット後に増幅器内を空冷している。ロッド型増幅器のダブルパス用ミラーやパルス圧縮器手前の伝送ミラーには可変形ミラーが採用されており、最適なビーム集光像が得られるように波面制御された集光強度は1021W/cm2に達している。
   Vulcanレーザーを用いた10PWのOPCPAプロジェクトでは、残念ながら実験室の見学はできなかったが、現在構築中であるOPAフロントエンドについて情報を得た。発振器はFemtolasers社のRainbowであり、600~1000nmに渡る広帯域スペクトルを波長720nm帯と波長810nm帯に分離している。波長720nm帯の成分はそのままLBO非線形結晶へシード光として入力し、波長810nm帯の成分は増幅と波長変換を行い、波長405nmのポンプ光としてLBO結晶へ入力している。LBO結晶内のOPA過程により中心波長900nm、バンド幅180nm、エネルギーがサブmJのアイドラー光を10PWレーザーの種光として用いている。これは後段のOPAの大型結晶として用いるDKDP結晶の特性に一致させた波長選択である。4~5年後に10PWを完成させる計画が現在も進められている。
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写真:(左上)Astra oscillator.(左下)Glass pump laser (Gemini). (右上)Gemini booster amplifier.(右下)Gemini pulse compressor.

    2008年1月14〜15日にかけて、英国ベルファーストにあるQueen’s大学に訪問した。Queen’s大学ではチタンサファイアレーザーと2ビームのガラスレーザーを用いた高強度レーザー利用実験が計画されている。ガラスレーザーはコヒーレント社のカスタムレーザーであり、パルス圧縮器手前で30J・2ビームの出力が得られる大型のレーザーシステムである。ガラスレーザー最終ロッド増幅器の大きさは有効径50mmφであり、5分毎に1ショットが可能であるが、ビーム品質を考慮した場合は10分毎に1ショットとなる。パルス圧縮後のパルス幅は500fs程度であり、1ビーム当たりのパルスエネルギーは20Jが得られている。チタンサファイアレーザーの発振器は共振器長を制御して、入力されるリファレンス周波数と実際の発振周波数を一致させている。また、チタンサファイアレーザーとガラスレーザーの同期は電気信号で行われており、チタンサファイアの発振器はコヒーレント社製のmiraであり、発振器後に再生増幅器で増幅されている。再生増幅器の前後に各々1台、さらに再生増幅器内に2台の計4台のポッケルスセルによりプリパルス抑制を行っているシステムである。2008年1月中に高強度レーザー利用実験が行われる予定である。
   

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写真:(左)Glass laser preamplifier.(中央)Glass laser main amplifier.(右)Target chamber.
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