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【活動報告】
活動報告 スイス・チューリッヒで開催されたX線マイクロスコピーに関する国際会議(XRM2008)における諸外国の研究開発状況
日本原子力研究開発機構 加道 雅孝

出張期間:平成20年7月21日−25日
出張先:スイス・チューリッヒ

   平成20年7月21日から25日までスイスのチューリッヒで開催されたX線マイクロスコピーに関する国際会議XRM2008(9th International Conference on X-Ray Microscopy)に参加し、「Development of a soft x-ray plasma camera with a Fresnel zone plate to image laser produced plasmas」の演題で、軟X線プラズマカメラを用いたレーザープラズマ軟X線源の性能評価に関する研究成果についての報告を行うとともに、諸外国のX線顕微鏡の最先端の研究成果について、情報収集、意見交換を行った。会議では、44件の口頭発表と218件のポスター発表により、世界の最先端のX線集光技術やX線顕微鏡の開発と利用に関する報告が行われ、活発に議論された。
    X線の集光に関しては、KBミラーや回転楕円鏡を用いて100nm以下の集光サイズが実現され、フランスのESRFのグループらによってシンクロトロン放射光を用いた蛍光X線イメージングによる空間分解能100nm以下での細胞などの元素分析イメージングに関する発表が多く行われた。軟X線領域では、最外輪帯幅20nm以下のフレネルゾーンプレートが多くの研究所で実現されており、さらに10nm以下のゾーンプレートの実現を目指し、ローレンスバークレー国立研究所のグループによる2枚のゾーンプレートを組み合わせる方法やスイスのポールシラー研究所のグループによる軽元素のシリコンで作成したフレネルゾーンプレートのサイドウォールにイリジウムをコーティングする方法などの新しい方式が報告された。また、ローレンスバークレー国立研究所のグループが、左右で位相をシフトさせたフレネルゾーンプレートや渦巻き状のフレネルゾーンプレートの開発について報告を行った。このフレネルゾーンプレートを用いることによりフレネルゾーンプレート単体で位相差イメージングが可能となる。
    この会議でもっとも印象的だったのはDESYのFLASHを利用したものを始め、ニューヨークのストーニーブルック、スイスのポールシラー、フランスのESRF、オーストラリアのメルボルン大学、米国のコロラド大学、日本のSPring-8等、コヒーレントX線を用いた回折イメージングに関する発表が数多く(44件の口頭発表中9件)なされたことである。これは、世界で精力的に開発が進められているX線FELの利用を想定したもので、今後ますます盛んに研究が進められることが予想される。回折イメージングに関する発表がほとんどすべて放射光を用いたものであった中で、コロラド大学のグループらがコロラド州立大学で開発されたキャピラリー放電を用いたプラズマX線レーザー(波長47nm)による回折イメージングの発表が1件あったが、プラズマX線レーザーの利用法として、今後積極的に研究が進められると予想される。
    回折イメージングでは、回折像からの位相回復による像の再生技術が非常に重要であり、再生精度を左右するが、試料をオーバーラップさせながらスキャンし、そのオーバーラップした部分の情報を用いることにより位相回復の精度を格段に向上する技術としてタイコグラフィー(ptychography)が注目されてきており、スイスのポールシラー研究所らのグループを始め、数件の発表がなされた。この技術は、休憩中や食事時も含め非常に活発に議論されており、今後非常に重要な位置を占めることが予感される。
    レーザープラズマを用いたX線イメージングに関する発表は、ポスター発表では幾つか報告がされていたが、口頭発表ではスウェーデンの王立研究所による物が1件あっただけだが、液体金属ジェットを用いた非常に小型の電子衝撃型の高エネルギーX線源を開発し、30秒の露光時間でネズミのがん細胞の位相コントラスト像の取得に成功している。ラボ型の装置による高エネルギーX線による位相コントラストイメージングが十分実用的であることが示された。
    X線マイクロスコピーの流れとして、放射光を用いた方式は、X線FELの完成をみすえ、回折イメージングやホログラフィーなどのコヒーレントX線を用いたイメージングが今後ますます発展していくと考える。一方で、X線結像素子の高空間分解能化に関する研究も盛んに進められており、より高い空間分解能を持つ、より実用的なX線顕微鏡の開発はこれからも進められていくと考えられる。ラボ型の装置を用いた方式は、これまで主流だった水の窓波長域のX線顕微鏡にとどまらず、高エネルギーX線による位相コントラストイメージングや、回折イメージング等へ利用が広がっていくと思われる。
    今回参加した第9回X線マイクロスコピー国際会議の参加者は300人を超え、過去最高の参加者数であったそうである。X線FELの開発が順調に進んでいるためか、この分野全体が非常に活気づいていると言うことを実感した。

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写真:ポスターセッションで発表する筆者
   


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