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【活動報告】
活動報告 フランス応用光学研究所訪問および 11 th International Conference on X-ray Lasers (11th ICXRL)報告
日本原子力研究開発機構 大道博行
田中桃子
河内哲哉

出張期間:平成20年8月15日−22日
出張先: 仏・フランス応用工学研究所 & 英・ベルファスト

    8/15-16の日程でフランス応用光学研究所(LOA: Laboratoire d'Optique Applique)を訪問し、A. Rousse博士と超短パルスX線光源についての議論を行った。LOA では、超短パルス高輝度レーザーにより光電界電離したプラズマ中のイオンの周りを電子がベータトロン運動することにより指向性の高いX線を発生させる基礎実験を行っており、すでにKeV領域のパルス幅、数10 fsの超短パルスX線の発生に成功している。この光源を用いたKeV領域の軟X線レーザーの可能性についてRousse博士およびLOAで軟X線レーザーの研究を行っているS. Sebban博士と意見交換を行い、将来的な共同研究も視野に入れた協力体制の重要性を確認した。
   その後8/17-22の日程で開催された第11回X線レーザー国際会議に出席した。X線レーザー国際会議は、X線レーザーや高次高調波等のレーザー駆動コヒーレントX線光源の開発及び利用研究について集中的に議論を行う国際会議であり、二年に一度開催されている。今回はイギリス・北アイルランド、ベルファスト市のQueen's大学ベルファスト校(QUB)にて8月17日から8月22日まで開催された。会議場としてQUBの階段教室(Karl George Emeleus Theatre)が使用され、100名近い国内外の研究者が口頭発表52件(招待講演28件を含む)と33件のポスター発表が行われた。ベルファストでは既に秋の気配が感じられ、蒸し暑い日が続いている関西とはうって変わり、当地の気候は肌寒いほどの涼しさであった。
    X線レーザー分野では、短パルス・高繰り返し・短波長・高効率・高空間コヒーレンス・偏光制御等などが現在の研究キーワードである。これらを達成すべく、高繰り返し高出力レーザー開発、種種のプラズマ生成・励起法の開発、光シードによる制御等が推進されている。これらと並行してX線とレーザーという組み合わせの優れた特徴を生かした応用研究も展開されている。
    X線レーザーの高繰り返し、高効率化はGRIP(GRazing Incidence Pumping)法が主流となって進められている。波長域10-20nmのX線レーザーの高利得領域は、1 μmレーザーの臨界密度(1021 cm-3)よりも低い電子密度領域(1019-1020 cm-3)に存在する。GRIP法とはターゲットに対して斜めから励起レーザー光を照射し(典型的な斜入射角は10 deg.)、レーザーの反射点を低密度側にシフトさせることで、高利得領域をレーザーで直接加熱する方法である。高反射率の多層膜ミラーが使用可能な波長13 nm付近では1 J、10 Hzのチタンサファイアレーザーによる励起が可能で、この波長領域における標準的な手法となっている。ただし、短波長化では独国GSIで7.3 nmの発振に成功しているものの、発生に100 Jクラスのレーザーを必要としており、この手法での短波長化は困難を伴う感がある。
    仏国LIXAM、韓国光州GISTでは、新型励起レーザーの完成を控えており、それらを用いた高効率なX線レーザー発振に向けたパラメータを検討中である。プラズマ計測、シミュレーションなどにより詳細な検討が成されており、従来から指摘されていた、プリプラズマの成形の重要性が議論されていた。
    X線レーザーの高品質化には、シード光の採用が重要となっている。LIXAM、GSI、英国Queen’s大学などでは励起レーザーの2ビーム化が検討されており、原子力機構が以前より実用化している報告した二つのターゲットを用い、一方をシード光発生、もう一方を増幅器として使うダブルターゲット法が可能な構成となっている。また、ガスに超短パルス高強度レーザーを照射して発生する高次高調波をシード光とする方法は、仏国LOAなどで時間、空間ともにフルコヒーレントなビームが得られている。全体的に、応用研究を視野に入れてコヒーレンスを重視する傾向は高くなっていることが伺える。
    X線レーザーと競合する光源としては、まず高次高調波発生がある。イオン飛行時間分析法によるパルス幅計測が可能になったことで、高次高調波によるアト秒パルス発生への取り組みが活発化しており、アト秒パルスを用いた原子・分子のダイナミクス観測など極限科学への取り組みも紹介された。また、複数の物質を混合したり2波長の光を入射したりすることで、効率を上げられるとする報告があった。X線自由電子レーザーではFLASHの招待講演が行われた。現在、13.2 nmで1017 W/cm2、集光φ1.5 μmまで達成しており、レーザーとの同期ジッタを10 fs以下に抑えるなど、利用研究を考慮した努力が成されている。
    X線レーザー利用研究としては、高輝度、短パルス、高コヒーレンスを生かしたイメージ計測が主流で、X線トムソン散乱によるWDM (Warm Dense Matter)の温度診断、高輝度なX線レーザーをプローブに用いてプラズマ自発光による影響を除去したオパシティーの観測、レーザー核融合プラズマの干渉計測や、集光したX線レーザービーム及び干渉パターンを用いたリソグラフィーなど産業界への応用も視野にいれた研究が展開されている。物性や生物応用の研究は計測手法開発にとどまる印象で、専門分野の研究者との連携が重要であると感じた。
    バンケットはQUBのGreat Hallと呼ばれる晩餐会等に用いられる部屋で行われた。部屋の壁にはLarmor運動のJoseph Larmorや、後にプリンストン大学学長を努めたJames McCosh等の歴代のQUB出身の著名な学者の肖像画が飾られていた。その中に、プラズマ分光学の衝突輻射モデルの提唱者の一人であるDavid Batesの肖像画が飾られていたのには感慨深いものがあった。バンケットの場にて、次回の会議が韓国光州のGISTにて開催されることが発表された。最終日に行われたClosing Remarksでは、プラズマベースのX線レーザーの将来についてのフリーディスカッションの場も設けられ、参加者からの多様な意見をという言葉で締め括られた。
    本会議も既に10回を超え、X線レーザー開発の歴史は既に20年以上を数える。X線レーザー開発の中で生まれた技術・知識は、すでに極端紫外光源開発分野を始め多岐の分野へ波及しているが、特にX線レーザー応用研究とともに培われているコヒーレント軟X線光学技術は、近い将来様々な分野での計測手法に影響を与えていくであろう。実際、応用研究の対象として物性、生物学、微細加工等の分野の研究者の発表もかなり増えてきている。今後ともこれら関連研究者間の密な連携を通じてX線レーザーの応用範囲が更に広がっていく事を期待する。
   

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写真:講演風景(大道)
   


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