PWmonoQ_top_image
  
【活動報告】
研究動向調査報告書 米国ダラスで開催された第51回アメリカ物理学会プラズマ部門に関する報告
大阪大学レーザーエネルギー学研究センター
大島 慎介

出張期間:平成20年11月17日−21日
出張先:米国テキサス州ダラス市 ハイアットリージェンシーホテル

     2008年11月17-21日の一週間にわたり、米国テキサス州ダラス市にあるハイアットリージェンシーホテルにて,アメリカ物理学会プラズマ部門(American Physical Society - Division of Plasma Physics/ APS-DPP)の会議が開催された(図1).ダラス市は,アメリカン航空のハブ空港でもあるダラス・フォートワース空港からおよそ15 kmほど南東に位置し,米国南部では最大規模の都市である.APS-DPPは,基礎プラズマに始まり,慣性核融合プラズマ,レーザー生成プラズマ,磁場閉じ込め核融合プラズマ,非中性プラズマ,プラズマ宇宙物理などといったプラズマ物理に関する研究内容を網羅する非常に大規模な会議である.特に,今回は1959年のAPS-DPP設立より五十周年を迎える記念碑的な年会であり, プレナリー講演は,それを意識して行われていた.会場内には50周年記念特別ブースが設置され,歴代のプラズマ物理の発展,APS-DPPの歴史,ラングミュア,ランダウ,スピッツァといった著名な研究者らが紹介されていた.
 今回の会議はウィスコンシン大学のS. Prager博士による磁場閉じ込めプラズマに関する内容,UCSDのT. M. O’neil博士による非中性プラズマに関する内容のプレナリー講演によって幕開けとなった.毎朝八時より各分野を牽引する代表的な研究者によるプレナリー講演がなされた後に,関連分野別に口頭発表セッション,ポスター発表セッションが複数個並行して開催される(図2).この為,興味を惹かれても,スケジュールの重畳によって聴講することが不可能である講演があり,残念であった.他の曜日のプレナリー講演の内容としては,慣性核融合(K. Matzen博士, Sandia National Laboratory),低温プラズマ(M. J. Kushner博士,ミシガン大学),スペースプラズマ中の波動(D. Gurnett博士,アイオワ大学),磁気島に関する話題(R. Fitzpatrick博士,テキサス大学IFS),磁場構造に関連したカオスの話題(J. Meiss博士,コロラド大学),高エネルギー密度物理(R. P. Drake博士,ミシガン大学)の講演があった.ほとんどの講演で,プラズマ物理と他分野物理との類似する内容について強調しており,五十周年ということもあってプラズマ物理の多様な展開を示唆する意図があったと考えられる.個人的に特に印象的であったのは,最終日のR. P. Drake博士によるプレナリー講演のまとめにおいて,“20世紀の教科書的なプラズマ物理へのアプローチ(準中性,マクスウェル分布,デバイ球に対し,多くの荷電粒子から成る集合体をプラズマとして定義,空間的一様性orマクスウェル分布からの逸脱による不安定性の議論から構成)に対し, 21世紀のプラズマ物理はこれらを“breakし,上記のようなシンプルなケースから逸脱したシステムの生成と制御の時代である”,とまとめていた事である.超高強度レーザーによって超高密度プラズマを“生成“し“制御”することで,単色量子ビーム発生を狙う本プロジェクトの方針は,まさに今後21世紀のプラズマ物理を牽引する研究であることが自覚され,大いに鼓舞,奮起される内容であった.
 単色X線発生に関しての研究は,数は少ないもののポスターセッションにおいて幾つかの発表があった.ロスアラモス国立研究所からは,位相コントラストイメージングを目的として, Mo, Ag, WワイアターゲットにTrident 200 TWレーザーを照射してX線源として用いる研究に関して発表されていた.カリフォルニア大学サンディエゴ校らの研究ではX線回折への応用を主たる目的として,LLNLのJupiter Laser FacilityのTitanレーザーを用いて,レーザーエネルギー,入射角度とK殻X線の発生効率との関係について議論していた.カナダのINRS−EMTからは,ALLSレーザーシステムにおいて,MoのK殻X線を用いた位相コントラストイメージングの研究が報告され,実際にマウスの骨格透視画像が示されていた.他には,X線バックライト光源としての開発研究が幾つか報告されていた.しかしながら,これら応用を志向した研究はなされてはいるものの,レーザー → 高速電子 → 単色X線発光の変換機構についての基礎的理解を進展させるような研究内容,また積極的な変換効率向上についての取り組みに関する研究の報告は見られなかった.本プロジェクトにおける我々の目的であるレーザーからX線への変換機構物理の理解の進展,及び変換効率の向上を狙うことは,今後この分野において非常に重要であると考えられる.
 以上、活発なプラズマ物理分野の多様な展開について多くの情報を得ることが出来,今回の会議参加は,きわめて有意義であった.
 最後に,余談ではあるが,プラズマ物理に携わるものならば学生時代に読んだであろう“Chenの教科書“こと,“Introduction to Plasma Physics”の著者F. F. Chen博士(UCLA大学名誉教授)が招待講演にて発表をされていた.齢70を超えているであろう博士が,プラズマ研究の一線にて活躍されている姿を拝見できたことは,若輩の著者に深い感銘を与えるものであった.
   

rpt_081117
写真:(左)今回のAPS-DPP会場であるホテルハイアットリージェンシー
(右)ポスター会場の様子.
   


トップへ