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【活動報告】
研究動向調査報告書 韓国・済州島で開催された10th International Conference on Inorganic Scintillators and their Applications(SCINT 2009)に関する報告
大阪大学レーザーエネルギー学研究センター
中里智治

出張期間:平成20年 6月 7日−13日
出張先:韓国・済州島

    2009年6月7日から13日の一週間にわたり、韓国済州道西帰浦市穡達洞にあるロッテホテル済州において、10th International Conference on Inorganic Scintillators and their Applications (SCINT 2009) が開催された。済州島は韓国南部に位置し、暖流の対馬海流の影響もあって、韓国の中でも最も温暖な気候で「東洋のハワイ」とも呼ばれる観光地である。中でも、会議が開かれたロッテホテル済州(写真)は中文観光団地という高級リゾート地で風光明媚な地区の一角にある。
 SCINT2009は、新規シンチレーター材料、シンチレーターの医療応用およびその他の分野への応用、シンチレーターを利用した先進的な検出器、シンチレーター技術、新たなシンチレーター材料、シンチレーター材料の生成、シンチレーター材料特性の評価、セラミックス・薄膜・ファイバーシンチレーター、ナノマテリアル・ガラスシンチレータといった、シンチレーターおよびその応用にいたる幅広い研究分野を網羅するシンチレーター研究において非常に重要な会議である。今回は、この会議に高エネルギー単色X線の発生と利用の実証に関する口頭発表を行ない、今後の更なる研究進展に向け情報収拾をするために参加した。非常に興味深い研究報告が多々あったが、紙面の限りもあり、ここでは特に今回の口頭発表に関連するものについて報告する
 会議は毎朝8時半から18時半まで行われ、活発な議論が交わされた。会議は、初日のプレナリー講演であるシンチレーター研究における現在の動向に関する報告で幕を開けた。その後、各セッションに関する報告がなされた。一部のセッションでは冒頭にプレナリー講演も行われた。口頭発表のみならず、ポスターセッションも初日、2日目、4日目の午後に行われた。本会議はシンチレーターに関する会議であるため、単色X線利用の実証に関する報告は少なかった。しかし、X線利用の一つとして想定しているイメージングという点からみれば、Pr:LuAGシンチレーターアレーを用いたPositron Emission Mammography開発(吉川 彰 准教授、東北大)、コンプトンガンマ線カメラ(Mr. S. Kurosawa、京大)、Positron Emission Tomography (PET) イメージング(Dr. S. Salvador, Institut pluridsciplinarie Hubert Curien)といった医療応用から、高エネルギー物理の分野におけるガンマ線検出のためのコンプトンカメラ開発(Dr. Hee Seo, Hanyang Univ.)等、多くの発表がなされていた。これは、単色X線利用実証の研究成果が様々な分野で応用が期待できることを意味している。会議全般を通して、先述のイメージング関連の研究報告の多さからもうかがえる通り、シンチレーターの性能としては、高速化、高光子収率のみならず高空間分解能化に高い関心が集まっていた。また、シンチレーター応用としては、先述の医療応用の他、中性子検出に関する研究が多くなされ、これらの分野への関心の高さがうかがわれた。
 私自身は、2日目の”special application”のセッションにて、極端紫外領域における新型ZnO結晶のシンチレーター特性評価について報告した。以下がその概略である。我々は、これまで、原子力研究機構・関西光科学研究所が所有するX線レーザーを用いて、ZnO結晶の光学特性評価を行ったところ、1 nsという非常に短い発光寿命であることを明らかにし、ZnO結晶が優れたEUVシンチレーター材料候補であることを示した。そこで、今回、更に高速なEUVシンチレーター開発を目指し、意図的に鉄イオンをドープした新型ZnO結晶を作成し、そのEUVシンチレーター特性を評価した。時間分解発光スペクトル測定の結果、発光寿命が70 ps程度であることを明らかにし、高速化に成功したことを示した。さらに、励起波長が50 nm~60 nmの範囲においては発光寿命に励起波長依存性がないことも示した。このことも、今回の新型ZnO結晶がEUVシンチレーターとして有力であることを示す重要な結果である。しかし、今回は測定装置のジッターの影響が大きいため、今後より精度の高い特性評価を行う必要がある。そこで、今後はシングルショットによる時間分解発光スペクトル測定を目指すことを報告した。シングルショットでのスペクトル測定の成功はZnO結晶のイメージングデバイスへの応用に道を開くものであり、先述のとおりイメージングに関する分野を問わず関心が高く、今後の研究に向け大いに奮起させられた。
 この会議に参加し、国内外の第一線で活躍されている研究者の発表を聞いて知見を広め、さらには自分の発表においても、研究結果、彼らの関心を集め、議論をし、様々な意見を伺えたことは大変貴重な経験であり、大きな刺激になり、大変有意義であった。
 余談ではあるが、3日目には済州島観光が企画され、済州民俗村博物館、済州盆栽芸術院、お茶の博物館、柱状節理を見学し、韓国・済州島の自然・文化に触れることができた。隣国であり日本との共通点が多々見受けられる一方、相違点も多かった。このような異文化交流ができたことも貴重な体験であった。
   

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写真:会議が行われたロッテホテル済州
   


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