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【活動報告】

研究動向調査報告書:UFO/HFSW参加

日本原子力研究開発機構 関西光科学研究所
越智 義浩


 大阪大学レーザーエネルギー学研究センターと日本原子力研究開発機構との連携融合研究「ペタワットレーザー駆動単色量子ビームの科学」エキサレーザー基盤技術開発班の調査研究として、2009年8月31日から9月4日にかけてフランスで開催されたUFO/HFSW 2009(Ultrafast Optics VII とHigh Field Short Wavelength XIIIの共催国際会議)に参加し、諸外国の各研究機関における高強度レーザー開発の最先端の研究成果について、情報収集と意見交換を行った。Ultrafast Opticsはその名の通りパルス幅が数サイクルの極短パルスレーザーに関する技術を、High Field Short Wavelengthは数TW〜PWまでの高強度短パルスレーザーの開発と応用研究をトピックとする国際会議であり、2003年までそれぞれに単独で隔年開催されていたが2005年より共催となり、UFO/HFSWとしては今回が3回目の開催となる。会場はボルドー郊外にあるアルカションという街の砂浜沿いにあるコンベンションセンターであった [写真1] 。
  会議では85件の口頭発表と51件のポスター発表が採択され、連日朝〜夕方までシングルセッションで進む比較的タイトなスケジュールであった。
  エキサレーザー班の重要な開発目的の一つである極短パルスレーザー生成に関しては、キャリアエンベロープ(CEP)の制御とその測定方法が中心議題であり、各国からkHz繰り返しでmJ級の数サイクル(<5フェムト秒)パルスの発生が報告された。MITのKa¨rtner氏からは、従来のf-to-2fに代表されるフィードバック制御以外の手法として、光整流を利用したフィードフォワード制御や、パラメトリック過程を利用した自己位相安定化などが紹介され、技術的にはかなり成熟してきたとの印象を受けた。一方で東京大学物性研究所の安達氏からは、実験により波長4nm領域のシングルアト秒パルスには~10 mJ程度のエネルギーが必要であるとの報告がなされた。今後、高調波発生とアト秒パルス生成を目指した更なる高出力化へと研究が展開していくものと予想される。その流れの中で、エキサレーザー開発に向けてはより高出力化を目指したOPCPA技術が重要になってくると思われる。
  高平均出力の超短パルスレーザーとして、ファイバーとCPA(Chirped Pulse Amplification)を組み合わせたFCPA(Fiber CPA)レーザーにより、数100フェムト秒のパルス幅にて100W級(例えばドイツ・イエナ大では375フェムト秒、325W)が得られるようになっている。現状、ファイバーの耐久性に問題があるようだが、今後より高出力化が可能となれば、加工等における波及効果は大きいと思われる。
  高強度短パルスレーザーに関しては、ロシア、英国、米国からそれぞれペタワットレーザーに関する報告があった。ロシアではロシア科学アカデミー・応用物理研究所にてOPCPAベースのペタワットレーザー装置PEARL(PEtawatt pArametric Russian Laser)の開発が進められている。大きなサイズの非線形結晶(KD*P)を自前で育成できることを強みに、現在10 x 10 cm2の結晶を3ステージ用い、0.5 PW(24 J/43 fs; 励起エネルギー 180 J@527nm)を達成しているとのことであり、本レーザー装置を用いた電子加速実験にてデータが得られ始めているようである。また、将来計画として15 x 15 cm2の結晶にて5 PW、さらには40 x 40 cm2の結晶にて35 PWという計画を示しており、今後の動向に注意する必要があると思われる。英国ラザフォード研では同じくOPCPAをベースとした10PWレーザー計画(Vulcan 10PW)が進められている。レーザー装置の仕様については以前より報告のあった通りであるが、それ以外に着目すべき点として、10PWレーザー照射時の放射線発生を考慮したチャンバールームの設計が示された他、様々な応用研究に対する展開を明確にしており、他の機関と比較しても最もシステマティックにまた着実に開発が進められているとの印象を得た。また、グレーティングは米国PGIにて開発をしており、4インチ径のシリコンウェファー上に900 l/mmをバイナリに加工することで効率93%が、また要求されるダメージ閾値180 mJ/cm2に対して現状、銀コートで80 mJ/cm2、金コートで120 mJ/cm2が得られているようである。米国テキサス大学では、2段のBBO結晶と1段のYCOB結晶を用いて800mJ/3.4nshの前置増幅を達成していた。YCOB結晶は非線形光学定数が低いものの大型化が可能であることから高出力化には有効であり、注目に値する。主増幅器としてシリカガラス、フォスフェイトガラスでアンプして1.1 PW(180J/165fs)を達成しているが、前述のガラスからK824、L654を用いることで更なる広帯域増幅ができることが示されていた。
  これら以外にも、今後のPW、EWレーザー開発に関連してくるであろう報告が数多くあり、また、タレスレーザー、アンプリチュードテクノロジー社他の協賛企業による展示の中にもCEP制御されたレーザーシステムや、ダズラー等のビーム安定化の為の装置など興味深いものが数多く見受けられた。今回の調査は最新の世界動向を知り、今後の研究展開につながる重要な知見を得る貴重な機会となった。


[写真1] 会場となったPalas des Comgre`s


[写真2] ポスターセッションで議論を行う報告者

   


   
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