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【活動報告】

イエナ大学理学部宇宙物理学部/光学・量子エレクトロニクス研究所を訪問して

大阪大学レーザーエネルギー学研究センター
 西村博明


 平成21年10月中旬、上記研究所を訪問する機会を得たので、垣間見た高出力レーザーとこれを用いたプラズマ物理研究に関する現状を報告したい。阪大レーザー研とイエナ大学との研究交流は古く、その開始は20年前にさかのぼることができる。そのころ、筆者は核融合コアプラズマの温度、密度プロファイルを診断することを研究テーマとし、高性能な2次元湾曲結晶があればX線単色カメラによりその診断法が開発できるとのアイデアに到達し、湾曲結晶を作る方法を探っていた。こうした中で、1980年4月から1年間、ガルヒン(ミュンヘンから北に車で30分のところ)にあるマックス・プランク量子光学研究所に招聘研究員として招かれた。ここで、運良くイエナ大学(ガルヒンから北に約600km)のX線光学グループがその技術開発に成功したとの情報を得た。早速、アウトバーンを飛ばしてグループリーダのE. フェルスター教授を訪問し、単色X線フレーミングカメラの開発に関する共同研究を開始する合意を得ることができた。それ以来、いくつかの共同実験を経て、世界で始めてレーザー爆縮コアプラズマの温度、密度プロファイルを計測することに成功した。また、これを契機としてレーザープラズマ放射X線分光に関する多くの共同研究を実施してきた。以来、イエナ大学を訪問したのは8年ぶりである(写真1)。イエナは、顕微鏡の発明で知られるカール・ツァイスが総合光学機器会社を設立した街である。東西ドイツ統合後、カール・ツァイス・イエナの市中工場は移転され、その跡地は、ショッピングモールとイエナ大学の文系学部として使われている。郊外の社屋はイエナ大学の分室と近く、この会社の代表的製品であるプラネタリウムの上映館が隣接している(写真2)。
 イエナ大学・光学・量子エレクトロニクス研究所では、LD励起高平均出力レーザーPOLARIS(現状17J(計画150J)/150fs/0.015Hz, 10-9コントラスト)の開発や、超短パルスレーザー駆動X線を用いた材料のパンプ・アンド・プローブ研究を実施している。その他、X線光学に関する長い歴史を背景としてX線偏光子の偏光度弁別率を10-12まで(通常は10-6)高める研究や、結晶の圧力相変化や温度度依存性を高精度に測定し、新しい物性を解明するなどの研究も行っている。通常の研究に使うX線管や検出器は、11セットも稼働中であるとのことである。また、ベルリン郊外にあるBESSY放射光やX線自由電子レーザー(XFEL)の利用研究にも加わり、X線光学や物性研究を展開している。上記の偏光子研究にはこの放射光光源を使うとのことである。写真3はレーザープラズマX線発生装置である。駆動レーザーは 50fs/3mJ/1kHzであり、これを真空容器内に導き、45度軸外し放物面鏡にて集光し、照射強度1017W/cm2を得ている。ターゲットは銅テープで、集光鏡のデブリシールドには光学特性の良好なPMMAフィルムを用いているとの事である。銅テープの裏面から取り出した8keVの単色X線パルスは真空容器外に導かれ、パンプ・アンド・プローブ研究に利用されている。
 写真4は、少し離れた建家に設置されたPOLARISレーザーの最終段増幅器である。このレーザーは増幅器全段がLD励起であることを特徴としており、パルスの尖塔値はペタワットに達する。プラズマチェンバーは放射線遮蔽を兼ねて地下に置かれ、電子加速ならびにガン治療の粒子線開発の研究を併行して行っている。
 ドイツではこのような大学での先端研究に対し、DFG(ドイツ学振)、マックス・プランク協会、フラウンホーファー協会、ヘルムホルツ協会の4つの組織が強い支援を行っている。POLARISレーザーの最終段は実に 240ユニットものイエナ・オプティックス製LDスタックを励起源としている。ペタワットレーザー開発にこのような多大なコストをかけることができるものヘルムホルツ協会の支援があることによっている。  欧州連合では現在、高速点火核融合や高エネルギー密度状態の科学研究を本格的に開始しようというHiPERプロジェクトならびに、エキサワットレーザーを開発し超高強度場の科学を開拓しようというELIプロジェクトとが同時に進行している。両者ともに可能性を明らかにしようとする段階にあり、イギリスやフランス、イタリア、スペイン、ギリシャなどのEU各国が様々な形で参画しているが、ここドイツは国家レベルでの参加は行わず、各研究所レベルで参加方針が決定されている。ここイエナ大学も。カール・ツアイスやイエナ・オプティック社の支援を背景に、両プロジェクトのパートナーとして主に高平均出力レーザー技術の開発に力を入れており、今後の展開には益々目を離すことができない。

写真1:イエナ大学理学部の入り口にて。右からI.ウッシュマン博士、E.フェルスター教授、筆者。プレートには「理学部、宇宙物理学部」と記載されている。

写真2:カール・ツアイス・イエナの社屋に隣接するプラネタリウム・シアター(看板に小さく、Carl Zeiss Jenaと読める。

写真3:レーザー駆動単色X線パルス発生用真空装置の内部。左側から入射したレーザー光は右端にある軸外し放物面鏡により、PMMAデブリシールドフィルムを経由して、銅テープ裏面に集光される。X線を裏面から取り出しているので、テープの弛みによる時間遅れは相殺される。

写真4:組み立て途上のPOLARIS最終段増幅器の前で。筆者(右)と、研究室ツアーに参加したチェコ・プラズマ物理研究所のレンナー博士(左)。この装置は完成まで、あと2年必要とのことである。
   


   
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