大阪大学 レーザー科学研究所

若手研究者インタビュー 芹田和則先生INTERVIEW_SERITA

若手研究者インタビュー 芹田和則先生

 

現在の研究内容について教えてください。

テラヘルツ電磁波という、光よりも波長の長い電磁波を使って、生体組織、細胞、分子などのバイオサンプルの計測ができる顕微鏡やセンサーの開発を行っています。サンプルにテラヘルツ電磁波を照射して得られる画像やスペクトルを分析し、バイオメディカル分野に応用利用していくための研究をしています。

 

この研究テーマを選んだきっかけ・理由を教えてください。

学生時代に取り組んだテラヘルツシステム開発がきっかけです。それまでのテラヘルツシステムは、パワーが弱く、イメージングに時間がかかり、またテラヘルツ電磁波の性質上、小さな物質を観察することができませんでした。これらの問題を同時に解決する方法を見つけ、テラヘルツ電磁波で見る新しい顕微鏡を作りました。最初は半導体や金属などを測っていたのですが、もっといろいろなことにこの顕微鏡が使えるのではないかと考えるようになりました。テラヘルツ応用分野は様々あるのですが、特に難しいとされていたのがバイオ分野でした。この分野では、がんやDNAなどを、染色という手間のかかる作業をせずに識別できることから大きな期待があったのですが、テラヘルツでの計測が非常に難しく、装置やセンサー開発が大きく遅れていました。自分の作った顕微鏡で、当時遊び半分で自分の髪の毛をセットして測ってみたところ、1本の細長い形状をきれいに見ることができました。ここから、バイオ分野にも使えるだろうと思い研究を始めました。

 

研究の成果としては、どんなものがありますか。

テラヘルツ電磁波で様々なものを見ることができる顕微鏡を作りました。これを使うと、テラヘルツ波で細胞を見ることができます。また、がん組織と正常組織を、染色という手間のかかる作業をせずに精度よく識別することができます。乳がんのケースだと、早期の小さながんでも0.5ミリ未満のものまで検出することができました。その他にも髪の毛サイズの小さなバイオセンサーを作り、1滴の試料に含まれる物質の濃度を高感度に測れる技術を開発しました。

 

アライメントの様子

どんなところに研究のやりがい、楽しさ、面白さを感じますか。

テラヘルツ電磁波では、我々のからだを構成する細胞や分子の新しい特性を、これまでの光や電波とは違った視点から調べることができます。自分がそういったデータを世界で初めて見るというところにやりがいと楽しさを感じています。また、ミラーやレンズで顕微鏡を自作して、プログラムも動かして、それが思い描いた通りに動作したときはとても嬉しいですね。

 

研究の苦労や、難しさはどんなところに感じますか。

テラヘルツ計測はシステム内のミラーやレンズがほんのちょっとズレただけでも結果が大きく変わります。そこを調整するのが最初はとても難しいです。また一般の方や専門外の方に、いかに分かりやすく研究内容や成果を伝えるかということも難しく思うところです。今こうして皆さんに話していることもできるだけその点を気にかけていますが、みなさんにしっかり伝わって初めて本当に私も理解したということになると思っています。

 

今後やりたい研究や目標、夢はありますか。

多くの方が、テラヘルツという言葉をもっと身近に感じられるよう、どういったことができるのかアピールしていきたいですね。私が今研究しているバイオ分野であれば、いろんな細胞や分子をテラヘルツ電磁波を使って計測し、それらの特性を情報として集めて、専門家の先生と議論しながら、例えばこんな変化がテラヘルツ領域で見えてくると病気になる可能性がありますよ、というのを示したりできる日が来るといいなと思います。あとはとても強い強度のテラヘルツ波をサンプルに当てるとサンプルの状態が変化することがあるとされているのですが、それがどういったメカニズムで起こっているのかについても調べてみたいと思っています。

 

実験風景

研究者を目指す後輩に、一言メッセージをお願いします。

1つ自分の専門を持っておいて、いろんなことに興味を持って、いろんな人と関わって常に情報を仕入れておくといいと思います。思いもよらないところから自分の研究が進んだり、新しいことを展開したりできると思います。そして、失敗してもいいので、少しでも気になったらとりあえずやってみるということが大事だと思います。

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