No.6
D−3He核融合への夢

九州大学大学院工学研究院
中尾 安幸


   原子核工学の出身なので、核科学とプラズマ理工学が重なる領域(があると思っています)に一番興味があります。目下の最重点テーマは、レーザー爆縮プラズマの高速加熱および点火の解析(学術創成研究の分担課題)ですが、D−3He核融合への長年に亘る夢を捨てきれずにいます。
D−T核融合に比べ点火条件は、閉じ込めパラメータで一桁、燃焼温度で4〜5倍厳しくなり、燃料としての3Heの問題もありますが、何といっても全核融合出力に占める中性子出力の割合を数%に抑えることができるのは魅力です。10数年前に九大グループは慣性閉じ込め方式におけるD−3He核融合としてDT点火材付きD3He燃料を考え、点火燃焼を検討しました。しかし、シミュレーションを行ってみると、主燃料が高速度で爆縮に向かっている間にDTコアが点火するため十分な圧縮が達成されず、ペレット利得は10以下にとどまるという結果に終わりました。(1)
以前の計算は中心点火を前提としたものでしたが、高速点火であれば圧縮と加熱は一先ず切り離して考えることができるので、「先行加熱点火」の問題は克服されそうです。さらにコーン・ターゲットであれば、DT点火材を燃料ペレットの表面近傍でなく、かなり内部で点火させることができるのではないか。DT中性子による主燃料の加熱は多分必須の条件で、計算に取り入れなければなりませんが、減速中性子による3Heの核変換反応も、もう一つの中性子効果として興味がもたれます。夢は膨らむのですが、シミュレーションは途方もないものになりそうです。(今でも大変なのに‥・という研究室メンバーの声がします。)

(1) H. Nakashima, et al., Laser Part. Beams 11 (1993) 137.

Photo. 研究室メンバーとカフェで暑気払い(左から3人目:松浦助手、
        4人目:私、残りの7人は院生)



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