宇宙衝撃波と粒子加速の物理学

超新星残骸や活動銀河核、太陽フレアなどの衝撃波の波面では荷電粒子が相対論的なエネルギーにまで加速され、それが高エネルギー宇宙線の起源にもなっていると考えられています。しかし、多数の理論研究がなされているにもかかわらず、実験的検証がありません。そこで我々は高出力レーザーで衝撃波を生成・計測し、衝撃波の構造や、粒子加速の物理、磁場の生成機構などの解明を目指しています。

無衝突衝撃波

無衝突衝撃波とは、粒子の平均自由行程が衝撃波面の厚さにくらべて非常に長いために粒子同士の衝突がほとんど起こらないプラズマ中での衝撃波のことです。 宇宙空間には低密度で高温なプラズマが多くみられ、観測される衝撃波はほとんどこの無衝突衝撃波になります。 空気中のように粒子の衝突が非常に頻繁な気体中では、粒子間の衝突により粒子の 散逸が起こりますが、無衝突プラズマ中では、そこで作られる電場や磁場によって 粒子の散逸が起こり、衝撃波が生成されます。

超新星残骸 超新星残骸

上図の左はSN1006と呼ばれる超新星残骸を表しています。右図はショック波面のX線の強度分布で、平均自由行程が13pc(パーセク)のところに、0.04pcほどの衝撃波が生成されています。

レーザーを用いた衝撃波生成実験

我々は、大阪大学レーザー研の激光XII号レーザーや、フランスEcole Polytechnique、中国上海などの高強度レーザーを用いて実験しています。 1nsecほどの短い時間に数100J〜1kJものエネルギーをレーザーで生成し、1mm以下の領域に照射することで秒速1000kmにも及ぶ高速プラズマ流を生成します。(図1)

ターゲットデザイン
図1 ターゲットの模式図

このようにして無衝突なプラズマの対向流を生成し、無衝突衝撃波が形成される様子を計測します。 プラズマ流に垂直方向からのレーザーによる shadowgraph(影絵)や interferometry(干渉計測)によってプラズマ密度を調べたり、プラズマの発光を調べることで、プラズマの密度や温度を調べています。
干渉計測の例 干渉計測の例
図2 干渉計測の例。レーザー照射前(左)とレーザー照射から9ns後(右)

図2は干渉計測の例を示しています。プラズマ中を通ってきた光と、真空中を通ってきた光は位相が異なるため、重ね合わせると図のように干渉縞のゆがみが生じます。この歪みからプラズマの密度を計算することができます。 図2では左端と右端にプラスチックのターゲットが置いてあり、左側のプラスチックをレーザーで照射しています。右側の3mm付近に干渉縞が急激に変化している様子が計測 でき、衝撃波が生成されていることが分かります。
ストリークカメラによる自発光計測 CCDカメラによるプラズマの自発光計測
図3 プラズマの自発光の時間変化(左)と2次元の像(右)

また、図3の左図はストリークカメラによるプラズマの時間変化で、プラズマによる自発光を計測しています。縦軸は時間変化を、横軸は空間方向を示しており、1次元の情報の時間変化を追うことができます。また、この25ns後の2次元像が右図のようになり、衝撃波の生成を、時間変化と2次元像の両方でとらえることができます。