超高エネルギー密度科学に関する研究

極限状態の生成を目指して

衝撃波点火方式核融合

衝撃波点火方式

レーザー核融合では、燃料をカプセルに閉じ込めて、高強度レーザーを照射することにより、短時間に圧縮・加熱し核融合反応を起こし点火を引き起こします。これまでの研究において、高速な圧縮においては、燃料カプセルの均一な圧縮が困難であることが明らかになり、この問題の解決を目指し、様々な点火方式が考案されてきました。

重森研究室では衝撃波点火と呼ばれる点火方式の研究に取り組んでいます。衝撃波点火方式では、高速な圧縮を避けるために、まず比較的低強度なレーザーの照射により燃料カプセルをゆっくり圧縮し、その後、高強度なスパイクパルスの照射により発生する衝撃波により点火を引き起こします。圧縮と点火を分離することで、効率が上がり、より少ない投入エネルギーで点火できるシナリオを描いています。

LPIによる高速電子と超高圧力発生

高速電子が与える影響

高強度レーザーを用いるレーザー核融合では、高い強度のレーザーとプラズマとの相互作用 (LPI)が発生します。LPIによって、エネルギーの高い高速電子と呼ばれる電子が発生します。一般的に、この高速電子はそのエネルギーの高さから、カプセルを通り越して内部の燃料を点火前に加熱してしまい圧縮効率を下げるという点で問題されています。しかし近年、カプセルの密度を高く設計する衝撃波点火方式において、この高速電子を、効率的な圧縮に利用できる可能性が示唆されました。

重森研究室では、高速電子が圧縮に与える影響を調べるため、GEKKOXII号を用いた衝撃波点火方式において、高速電子に関する様々なパラメーターを計測できる実験系を開発し、実験において計測されたデータから、高速電子の発生から吸収に至るまでのメカニズムを明らかにする研究を行っています。

レーザーアブレーション駆動機構の解明

レーザーアブレーション機構

レーザー核融合で用いられるような高強度レーザーに照射された材料表面ではプラズマ化が起こり、その膨張の反作用として衝撃波が駆動されます。これらの一連の過程をレーザーアブレーションと言い、レーザー核融合の高利得化のためにこの現象の研究がされてきました。しかし、ターゲットに高原子番号材料を用いた際のターゲットからの自発光や、プラズマ中の電子によるX線輻射の影響、高強度および長波長レーザー照射時には、レーザープラズマ相互作用(LPI)によって発生する高速電子による先行加熱などの影響があり、レーザーアブレーションの駆動機構の解明が求められています。

重森研究室では、ターゲットの自発光の影響を取り除くための実験系や、高速電子によるパラメータ計測を同時に行う実験系を開発し、複合的なアブレーション駆動機構の詳細な評価を行っています。

ナノワイヤーによる超高エネルギー密度状態生成

ナノワイヤーによるプラズマ生成の模式図

レーザー核融合の炉心プラズマなどは超高エネルギー密度状態と呼ばれる極限状態になっています。従来では大型レーザー設備による超高強度レーザーをターゲットへ照射することによって研究されていました。しかしこの大型レーザーは日に数回のショットしかできず、生成される炉心プラズマはごく小さいといった理由から研究へのアクセスが難しいという問題がありました。
このような中で近年ナノワイヤーアレイをターゲットとして採用することで効率的に超高エネルギー密度状態が生成できることが発見されました。ナノワイヤーアレイは直径が数百nm、長さ約10µmの金属ナノワイヤーが基盤に対して垂直に何本も生えているナノ構造体を指します。このナノワイヤーにはすき間が存在しており、そこにレーザー光が進入できるため、効率的な加熱及び大きな体積の超高エネルギー密度状態が生成できます。しかし、いまだそのエネルギー輸送は詳しく分かっていない点が多数存在しています。それに対し重森研究室ではエネルギー輸送機構の解明などを目的としたレーザー照射実験などを行っています。また実験用のナノワイヤーアレイの開発・作成も並行して行っています。

レーザー核融合炉工学の研究

太陽を入れる器を創る

Cuドープターゲット
ダイヤモンドカプセル

ターゲット開発

Cuドープターゲット

レーザー核融合では、圧縮された燃料(ターゲット)の核への高速電子のエネルギー移動のメカニズムを理解することは、より効率的な 核融合燃料の加熱にとって重要です。これらの実験では、トレーサー原子として原子番号(Z)の大きい原子を添加したターゲットを使用してレーザー加速された高速電子によって生成された特性X線を利用する事で、高密度プラズマにおける電子伝達の根本的なメカニズムを理解します。また、トレーサー原子として重水素を添加したターゲットを使用すると核融合反応中のターゲットからは中性子が生成されます。これにより圧縮された核の温度を調べることができ、これらの実験を通じて得られた情報は、レーザー核融合実験における高密度圧縮の物理現象を理解するためには不可欠なものです。

重森研究室では、トレーサー原子として高Z原子としてCuと重水素が両方ドープされた新規の計測用ターゲットの開発に取り組んでいます。Cu化合物と重水素化された有機化合物を高分子合成する事でターゲット材料を作成し、エマルジョン法と呼ばれる方法で球状に加工します。レーザー核融合実験に使用されるターゲットには高い表面均一性と真球性、トレーサー原子が均一に分散している事が求められるため、これら要求を満たすターゲットの開発に取り組んでいます。

ダイヤモンドカプセル

レーザー核融合においては、レーザー照射の非一様性に起因するカプセル表面の初期擾乱(インプリント擾乱)が高速な圧縮の際に増幅され、均一な圧縮を阻害することが問題です。インプリント擾乱を低減するためには、硬いダイヤモンドが有効であることが重森研究室における先行研究で実証されました。現在、重森研究室では、ダイヤモンドを用いた燃料カプセルの開発に取り組んでいます。ダイヤモンドは熱フィラメント気相成長法と呼ばれる方法で人工的に製膜できます。この方法を応用し、球状の燃料カプセルを開発しています。レーザー核融合の燃料カプセルにおいては、高い表面平滑性や膜厚一様性が要求されるので、ダイヤモンド燃料カプセルの高品質化に現在取り組んでいます。

 

核融合炉工学

重森研究室では、核融合で実際に発電を行うことを見据えて研究を行っています。核融合発電炉の中の環境は温度、レーザー光、放射線などの条件が特殊で、場合によっては材料にとって過酷な環境となります。核融合発電を実現するためには、このような環境下でも適切に炉をコントロールするための機器開発が必要です。1秒間に4回発振される強いレーザーに耐えられるミラー、炉内へ正確に燃料ターゲットを打ち込む装置、核融合反応により発生した熱を外部に伝える熱交換器などを開発していく必要があります。現在は液体金属ミラー、ターゲットインジェクション装置、熱交換器などを個別に開発しています。しかし、将来的にはこれらの装置を組み合わせて、核融合発電プラントの設計を行っていきます。ここにあげたような機器が核融合発電プラント実現のためのハードルを解決することになるのです。核融合発電の実現には高いハードルがたくさん残っています。しかし、ハードルは乗り越えるためにあるものです。それらのハードルを私達と一緒に乗り越えませんか?

固体DT燃料の開発評価

固体DT燃料の開発評価

核融合炉では固体の重水素(D)-トリチウム(T)燃料が使われています。慣性核融合では、この燃料ペレットの高い真球性が求められます。また、磁場核融合でもDとTの均一性や傷の有無の確認が必要です。

重森研究室では、磁場核融合と慣性核融合の双方の原型炉において、高品質な固体DT燃料ペレットの作成技術を確立するために、固体DT燃料の特性を高精度で評価する手法を開発しています。屈折率分布測定法が使用され、固体DTの詳細な屈折率データを得ることで、固体DT燃料ペレットの均一性、DとTの分布、燃料の投入量などの特性が光学的に実測可能になります。水素の同位体効果およびトリチウムのβ崩壊により、固体DT燃料の品質に与える影響を明らかにします。慣性核融合炉と磁場核融合炉における設計の確立を実現することを目指しています。

 
 
レーザー核融合炉における最終光学系の損傷

最終光学系の放射線損傷評価

レーザー核融合炉では、高出力レーザーのための多数のミラーおよびレンズなどの光学系が用いられています。核融合反応の際、反応により生じた放射線が炉内に飛散します。放射線は基本的にブランケットで吸収されますが、最終光学系と呼ばれるレーザーを炉の中心に入射するための光学ミラーは放射線の影響を避けられず、損傷を受けます。
重森研究室では、最終光学系における放射線の影響を調べるために、国内の放射線照射施設を利用して光学系に用いられる誘電体多層膜ミラーに対して放射線を照射する実験を行うことで損傷の評価を行っています。

 
レーザー核融合炉における液体壁

液体壁の流体シミュレーションと実験的検証

レーザー核融合炉では、核融合反応により生じた高エネルギー粒子からのエネルギー吸収及び伝達、システムの保護といった点で第一壁の設計が非常に重要となります。第一壁は損傷や浸食を受けやすく、寿命や性能の低下が懸念されます。そういった問題を解決するためにレーザー核融合炉では液体リチウムをを用いた液体壁が考えられています。液体壁は、液体であるという性質から損傷及び腐食を軽減し、熱伝達を高めることができますが、安定性や互換性、腐食、安全性などの問題があります。
重森研究室では、レーザー核融合炉に適した液体リチウムとその化合物を使用した液体壁システムを検証する研究を行っています。 数値流体力学(CFD)を使用してシミュレーションを行い、流れや熱伝達、液体壁の変形を評価し、その後実験によって検証します。

パワーレーザーによるレーザー加工の研究

レーザーによる新しい加工技術

レーザー照射の様子

レーザーピーニングに関する学理の研究

レーザーピーニングとは1GW/cm^2をこえる強度のレーザーを材料表面に照射し変形させることで、表面を加工硬化および圧縮残留応力を付与することです。結果、材料の疲労強度を向上させ長持ちさせることができます。また水中でレーザーピーニングを行うことで、より大きな残留応力を与えられるとわかっています。これは試料表面にレーザーを照射したときに、気中では試料反対方向に膨張するプラズマを押さえつけることができるためです。

重森研究室ではレーザー照射時の試料表面を観察するなどして、圧縮残留応力付与のプロセス解明に取り組んでいます。