研究内容

 

Nuclear Photonics
ハイパワーレーザーと核科学の融合

 

ご挨拶(有川安信)


ニュークレアフォトニクスとは、Nuclear +Photonics、すなわち核物理学とレーザー科学の融合によって生まれた新しい研究分野です。
当研究室ではハイパワーレーザーを用いて核物理学の探求をしています。研究テーマは、世界の最新研究成果の動向などにより戦略的に決めています。例えば、レーザー駆動方式による中性子発生やイオン発生、レーザー核融合などがあげられます。レーザー科学研究所が世界に誇るハイパワーレーザーである激光XII号とLFEXを用いた実験的研究や、研究室単位で運営できる比較的小型のハイパワーレーザー装置を用いた実験的研究、またそれらの研究のための装置開発などを行っています。
レーザー核融合エネルギーの実現に向けた研究や宇宙超新星爆発内の核反応を地上で再現するといったような人類の究極的な夢を探求するビッグサイエンス的研究もあれば、中規模装置中性子源によるラジオグラフィー非破壊検査技術の開発やホウ素中性子癌治療の研究といったような社会や産業に直接的に貢献する研究まで幅広く展開しています。
 当研究室では、研究所内のみならず、国内、国外にも多様な研究施設とのネットワークを有しており、学生の皆さんは国内国外のさまざまな研究施設で経験を積むことができます。
研究はどんなテーマであっても簡単にうまくいくものではありません。研究を進めていくと必ず問題点が明らかになってきます。そこで挫けずに、問題の根本は何なのかを理論的に考え、問題の種類を切り分けて、一つ一つ解決していけば、やがて研究は成功します。研究が成功したら論文を執筆して世界にその知見を公表し、科学の発展に寄与することができます。若い学生の皆さんには、これらの一連の活動を通して、問題を自分で克服する能力を身につけてほしいと思います。

 

研究テーマの例

 

(1)レーザー核融合燃焼および、中性子計測に関する研究


大阪大学レーザー科学研究所は長年にわたりエネルギー問題を解決するために、レーザー核融合の研究を行っております。近年、世界最大のレーザー核融合施設NIF(米国)で、レーザー核融合の実証試験に成功しました。
NIFでは、重水素(D)+三重水素(T)中性子(n)+ヘリウム(He)+17.6 MeVの反応を用いており、中性子とヘリウムイオンを発生します。一方、本研究所で研究している別の方式、高速点火レーザー核融合では、エネルギーが100 MeV(メガ電子ボルト)に及ぶ高エネルギーの電子や陽子・炭素・重水素などのイオンも発生します。高速点火レーザー核融合の実現のために、この反応で発生する中性子やイオンの計測が非常に重要です。
そのために私たちのグループでは常に最新技術を用いた計測技術の開発を行っています。1ピコ秒・1ミクロンの超高速・超高解像度計測器の開発は、計測器技術として究極的な目標値であり、長年をかけて取り組んでいるテーマです。 

レーザー核融合燃焼および、中性子計測に関する研究

[参考文献] Y Arikawa, et. al., Review of Scientific Instruments, 91, 063304 (2020) 

 

(2)レーザー駆動中性子ビーム発生に関する研究

 

LFEXレーザーのような大強度レーザーを用いることで、従来の加速器や原子炉では不可能な極短パルス・高強度の中性子パルスを発生させることができます。
たとえば、LFEXレーザーを重水素プラスチックの薄膜に照射すると、レーザーと物質の相互作用によって、電子と正イオンの間に瞬間的に極めて強い電場が生成され、陽子と重水素の最大エネルギーがそれぞれ約40MeV、8MeVまで高効率に加速されます。それらがベリリウム金属に入射すると、核反応が発生して中性子が発生されます。この中性子の数は1011/shotで、発生持続時間の幅が100ps以下、スポットサイズが1mm以下の点光源となります。この中性子をポリエチレンまたは極低温液化水素などに通過させると、熱中性子(0.025 eV帯)や冷中性子(5 meV以下)を生成することもできます。このように中性子のエネルギー選択の柔軟性が高く、点光源性の高い中性子源は、中性子応用研究を行う上で望ましい条件となります。

レーザー核融合燃焼および、中性子計測に関する研究

[参考文献] A.Yogo, et.al., The European Physical Journal A 59 (8), 191

この中性子ビームの特徴はパルス幅が短いという点です。この特徴を用いて、対象試料の内部の温度を非破壊で計測することが可能となりました。電子や陽子と比べ、中性子は透過力が高く、物質の非破壊測定に適しています。
また、それぞれの金属元素が持つ固有の核共鳴吸収エネルギーと合致した中性子のエネルギー帯は吸収されるという特徴があり、非破壊で元素の種類を識別できます。さらに、対象試料が持つ熱による運動によって生じるドップラー効果によって、対象金属の温度を非破壊で計測することが可能となりました。 
 

レーザー核融合燃焼および、中性子計測に関する研究

[参考文献] Z. Lan, et al., Nature Communications 15 (1), 5365, 10, (2024)

 

また、レーザーで生成した中性子は宇宙の恒星の中や宇宙線照射による新しい元素や同位体の研究にも適しています。我々の銀河系に存在する鉄より重い元素の約99%は恒星の中で発生した大強度の中性子によって生成されたと考えられています。最近の重力波観測で中性子星と中性子星の合体が観測されましたが、同時に重元素が中性子星合体で生成されたことが観測されました。また、ハヤブサ2によって小惑星リュウグウから回収されたサンプルから、リュウグウが過去に宇宙線中性子の照射を受けた証拠が発見されました。レーザー中性子を用いてこのこれらの現象の基礎的なメカニズムの解明を行っています。特に、リュウグウの分析チームの一部とは共同研究を進めており、リュウグウの太陽系内における歴史の解明にも貢献しています。また、小惑星ヴェスタから飛来した隕石に長寿命放射性同位体176Luのβ崩壊が加速した痕跡が見つかっています。本研究グループでは、宇宙線による加速された崩壊メカニズムを提唱しており、その実証を試みています。
このような研究領域はレーザー宇宙核物理と呼ばれており、重要な研究テーマの一つです。
 

レーザー核融合燃焼および、中性子計測に関する研究

[参考文献] T. Hayakawa, Journal of Physics: Conference Series 2894(1) 2024

 

(3)小型レーザーによる中性ビームラインの開発


LFEXでは1日に3発、1年間に1週間程度の実験しかできませんが、もっと頻繁に実験ができる繰り返し小型レーザーの開発を行っています。その小型レーザーを用いて、当研究グループが発見した核反応手法を用いて、指向性が高く・単色性に優れた熱中性子を100%スピン偏極させた状態で発生させることができます 。この装置が完成すれば、さまざまな中性子に関する応用研究が可能となり、研究の進展が一気に加速すると期待されています。
 

小型レーザーによる中性ビームラインの開発

[参考文献]https://www.ile.osaka-u.ac.jp/ja/interview_arikawa/index.html


 

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