大阪大学 レーザー科学研究所

若手研究者インタビュー 有川安信先生INTERVIEW_ARIKAWA

若手研究者インタビュー 有川安信先生

 

 

 現在の研究内容について教えてください。

今取り組んでいる研究内容は、レーザー光線のように指向性の高い中性子を発生させる手法の開発です。

もともと私は学部4年生の卒業研究から現在に至るまでレーザー核融合で発生する中性子の計測器開発を行っているのですが、その中性子という非常に面白い粒子を使って、レーザー核融合の研究だけでなく、もっと一般社会に直接役立つことができないかと考え出したのが、現在の研究テーマになっています。

 

この研究テーマを選んだきっかけ・理由を教えてください。

中性子ラジオグラフィ*1 は高速道路やビル内部の破損状態を検査することができるため、非常に有望視されている技術です。しかし中性子は、これまでどのような中性子発生装置を用いても、指向性が極めて低く、発生させた中性子のうち被写体に当たる割合はわずか100億分の1程度で、なかなかきれいな中性子ラジオグラフィ画像を撮ることができませんでした。
従来の考え方では、大きなレーザーや加速器を使って中性子発生量を上げて画質を改善する方法が主流でしたが、私のこれまでの研究の経験から、レーザー光線のように指向性の高い中性子を発生の段階から作ることができるのではと思いついたことがこの研究のスタート地点になりました。

 

 

図1)新しいアイデアの中性子発生の計算結果。シミュレーション計算の中で、γ-rayをD2 solidに打ち込んだところ、Neutronが一直線状に発生している様子が示されている。

 

 

中性子がレーザー光線のようになれば、多数の新しい応用研究が生まれます。まずは、核物理研究者の興味を最も引くと期待しています。中性子と中性子の衝突実験や、中性子を用いた磁場の計測など、これまで不可能だった実験ができるようになります。
また将来的には、これまで大型加速器がある特別な施設でしか実施できなかった中性子を用いたがん治療(BNCT)が、小さな病院でも受けられるようになります。指向性の高さを生かして、がん細胞だけを死滅させて、その周りの健常細胞を放射線から守ることができ、患者への負担が極めて小さい画期的な治療法になると期待しています。その他にも一般社会の様々な場所で役立つため、まさに未来を変えるテクノロジーになると考えています。

 

*中性子ラジオグラフィ 中性子を用いた非破壊検査技術。レントゲン撮影のように物体の内部を透視することができる技術である。特に中性子の場合、分厚い壁の内側の撮影ができる。

 

図2 )指向性の高い小型中性子源のイメージ図と、応用として癌治療や中性子ラジオグラフ

 

 

どんなところに研究のやりがい、また難しさを感じますか。

この研究のやりがいは、自分しかやっていない研究であることです。他の誰かがすでにやった研究のまねではこれほど楽しくありません。その反面、既存装置や先行研究成果もないため、すべて自分で創り出さなければならない点が難しい点でもあります。
幸い、このアイデアについて分野を超えて他の研究者と話す機会を持つことができ、興味を持ってくれる人が現れて協力してくれるようになりました。特に私の研究のような複合領域研究では、自分一人の知識ではうまくいかないことが多く、他の研究者との交流はとても重要だと考えています。

 

研究者を目指す後輩に、一言メッセージをお願いします。

これから研究を行う若い研究者には、ぜひ研究で遊んでほしいと思います。研究はすぐにはうまくいかないことが多いのですが、子供の頃に遊びに夢中になっていたように研究を続けていれば、失敗も楽しめるようになり、諦めずに続けていれば、やがて成功するものだと考えています。

 

 

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