開催報告:2025 JSPS Core-to-Core Meeting @ Tours, France
2025年9月14日、フランス・トゥール会議センターにおいてJSPS Core-to-Coreプログラムの国際ワークショップが開催されました。本会合は日本、フランス、米国、ドイツ、ルーマニアなどの研究者ネットワークにより構成され、レーザー慣性核融合(IFE)に関する最先端の研究成果と課題について活発な議論が行われました。参加者は現地が60名、オンラインが10名でした。
最初の講演では、浜松ホトニクスの関根尊史氏が半導体レーザーダイオード励起による1 kJ級Yb:YAGレーザー開発の進展を報告しました。ヘリウムガス冷却を用いた高繰返し動作により200 J級パルスを10 Hzで実証し、今後の1 kJ級動作に向けた課題として光学コーティングの損傷が挙げられました。続いてCEAのXavier Ribeyre氏が、慣性核融合炉の歴史と展望を整理し、NIFでの点火実証を踏まえ、直接照射、間接照射、高速点火、衝撃波点火を比較しました。また、ターゲット供給、ブランケット設計、トリチウム供給不足といった炉心設計上の重要課題が示されました。
- Dr. Xavier Ribeyre (CEA)
Imperial College LondonのAdam Dearling氏は、ICF関連プラズマにおける磁場の生成と輸送の研究を紹介しました。プロトンラジオグラフィーを用いてNernst効果やBiermannバッテリー効果を直接観測し、非局所輸送や不安定性が爆縮対称性や燃焼領域に強く影響することを示しました。その結果、磁場制御が燃料点火と安定燃焼の鍵となることが明らかになりました。ドイツのスタートアップ企業Marvel Fusion GmbHからはHartmut Ruhl氏がIFE戦略を説明し、広帯域レーザーによる不安定性抑制の構想や、レーザー効率の大幅な向上、低コストターゲットの開発、さらにナノ構造体を用いた新方式が提案されました。
続いてスペイン・マドリード工科大学のJavier Honrubia氏がプロトン高速点火の現状を報告しました。コーン付ターゲット実験ではプロトンビームのガイド性が確認された一方で、変換効率の低さや磁場生成によるビーム発散が課題であることが示されました。マイクロ構造ターゲットを用いることで効率が最大5倍向上する成果も得られており、今後数百kJ級レーザーを用いた設計では効率10〜15%が必要であるとされました。大阪大学の村上匡且教授は、自己相似解を拡張した多重ショック同時収束による超高密度圧縮理論を提示しました。単一ショックによる圧縮が30倍程度であるのに対し、多重ショックでは100倍以上の高密度が達成可能と予測され、レーザーパルス列設計の基盤となることが示されました。
北京大学のBin Qiao氏による「超高速中性子源」の講演はビザの関係で中止されました。大阪大学の山田龍弥氏はレーザー駆動によるスピン偏極中性子生成の現状を報告し、LFXレーザーを用いた実験により熱中性子イメージングを実証しました。検出にはCR-39とリチウム6を組み合わせた手法を用い、2 mmの空間分解能を達成したことが示されました。今後はキロテスラ級磁場を組み合わせた実証実験が予定されていることも紹介されました。最後に大阪大学のD. Pan氏が、ブレード付きマイクロチューブ爆縮によるギガガウス級磁場生成のシミュレーションを発表しました。ターゲットに非対称性を導入することで電子とイオンの流れが逆回転し、ループ電流が形成されてギガガウス磁場が発生することが確認され、最適なブレード数は8であると報告されました。
本ワークショップは、レーザードライバー開発、炉心設計、輸送物理、点火シナリオなどの分野が有機的に連携していることを確認する場となりました。民間企業の参画によって新たな視点が加わる一方、科学的根拠の妥当性をめぐる議論も活発に行われ、研究の健全性を確保する重要性が再認識されました。今後の課題としては、高効率かつ高繰返し動作可能なレーザーの実現、ターゲット供給の安定化と低コスト化、トリチウム燃料供給の確保、さらに磁場制御による燃焼安定化が挙げられます。これらの課題を解決することにより、国際的な協力の下で核融合エネルギーの実現と超高エネルギー密度科学の発展が着実に進展することが期待されます。