研究内容

核融合研究
レーザー宇宙物理
EUV光源開発

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大阪府吹田市山田丘2-6
TEL 06-0879-8777
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Ⅰ.核融合研究


燃料価格の高騰、原子力発電所の老朽化、地球温暖化など、エネルギーに関わる深刻な問題が、身の回りに溢れています。次世代を担う我々こそが、この問題の解決に向けて動き出さなければなりません。核融合は長年、夢のエネルギーと言われてきました。今まさに、その夢は現実になろうとしています。

核融合は二酸化炭素の排出を伴わず、放射性廃棄物の発生や処理の問題が少ないエネルギー源です。また、核融合反応に用いる燃料は海水や核融合炉内から取り出せるため、当面枯渇の心配はありません。
我々が研究しているのはレーザー核融合と呼ばれる方式です。高出力レーザーを用い、地上にミニチュア太陽を作り出します。太陽のエネルギー源は核融合反応です。このミニチュア太陽の内部で効率良く核融合反応を起こすことが出来れば、人類は恒久的なエネルギー源を手に入れたことになります。

大阪大学レーザーエネルギー学研究センターでは、高速点火レーザー核融合による核融合点火実証プロジェクト(FIREXプロジェクト)を推進しています。高速点火レーザー核融合は、比較的コンパクトなレーザー装置で核融合エネルギーを取り出すことが可能であり、実用的なエネルギー源に成り得ます。

当グループでは、新しい診断技術を開発し、これまで分からなかったミニチュア太陽(プラズマ)の内部構造を明らかし、レーザー核融合の成功への道筋を探求しています。

レーザー核融合はスケールの大きな研究です。国内外の複数のグループと分担・連携をしながら研究を進めています。


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<単色X線カメラを用いたプラズマ温度計測>


核融合反応を起こすためには五千万度以上の温度が必要です。実験とは、「プラズマの温度が予想通りなのか?」を調べ、測定した温度が予想を下回っているのならば「温度を下げる原因は何か?」「どうすれば温度が上がるか?」を明確にすることが目的です。


当然ながら5000万度を測定できる温度計はお店で売っていません。自分達で作る必要があります。当研究室では単色X線カメラを用いたプラズマ温度計測器を開発しています。この温度計を使うことで、核融合を起こすために必要な温度を得るための方法を明らかに出来ると期待しています。


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温度計測用単色X線カメラの写真



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単色X線カメラで測定した核融合プラズマの温度分布(上段)と予測計算(下図)との比較




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<単色X線カメラを用いたプラズマ密度計測>



核融合反応で大きなエネルギーを発生させるためには、プラズマを高密度に圧縮する必要があります。必要とされる密度は固体密度の1000倍以上、具体的には、大きさが角砂糖一個分で重さが1 kgの物体の密度に相当します。

密度計も自分たちで作らなければなりません。単色X線バックライト法と呼ばれる手法を開発しており、この手法が完成すれば核融合プラズマの形や密度分布が明らかにすることが出来ます。

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核融合燃料の写真(上段)と単色X線バックライト法を用いて測定した
核融合燃料の密度分布(下段)


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爆縮コアの影絵



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<核融合反応領域の画像計測>



上記、二つの計測器を使って温度・密度を計測できたとしましょう。次に必要なのは、核融合反応が起こっている領域の空間情報です。核融合反応が起こっている領域の温度・密度を知ることができれば、核融合反応領域を更に広げる為のヒントが得られるはずです。

当研究室では、この課題に取り組むために、多開口半影法と呼ばれる新しい計測手法を開発しています。

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多開口半影カメラで用いる素子の顕微鏡写真(左図)と取得したプラズマの発光像(右図)



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Ⅱ.レーザー宇宙物理


<高輝度レーザープラズマX線源を利用した宇宙物理研究>



太古の昔から、人は夜空を眺めて宇宙の神秘に思いを巡らせていました。現代では、天文学という確固たる一分野を形成し、多くの研究者が宇宙の神秘の解明に取り組んでいます。従来、宇宙で起こっている現象は望遠鏡を覗いて知る他ありませんでしたが、ハイパワーレーザーの実現により、宇宙で起こっている現象を目の前で発現させ、その詳細を調べることが可能になりました。このような研究分野をレーザー宇宙物理と名付け、我々の研究室はその発展の一翼を担っています。


本研究室では、特に高温で高密度なレーザー生成プラズマから放射される高輝度なX線の利用に着目しています。大阪大学レーザーエネルギー学研究センターにある激光XII号レーザーのような世界屈指の高出力レーザーを使えば、固体密度の数百倍の密度を持つ一千万度のプラズマを生成することが可能です。このプラズマを利用すれば、自然界ではブラックホールの周りにしか存在しない、極めて高輝度なX線で満たされた場を実験室内で作り出すことができます。その瞬間輝度は兵庫県にある大型放射光施設SPring-8を上回るほどです(図参照)。


高輝度なX線放射場中でのプラズマの特性(温度、密度、電離状態、透明度など)を測定することで、天文研究で利用されているシミュレーションの精度の検証や新しい物理現象の発見を目指しています。この研究はまだ始まったばかりです。熱意ある大学生、大学院生、若手研究者の参画を熱烈に歓迎します。

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レーザープラズマX線光源の瞬間輝度をSPring-8及び太陽等の光源と比較したもの。
レーザープラズマ光源は、1 - 10 keVの領域でSPring-8よりも明るい。



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Ⅲ.次世代半導体製造用EUV光源開発




情報端末機器などを小型化するには、集積回路も微細なものにする必要があります。現在は、45~65 nm(ナノメートル:100万分の1mm)という極めて微細なノード幅の加工が行われています。ノード径を線細化することにより同じ面積上により多くの集積回路を搭載することができるようになり、高性能化が可能となります。


コンピュータに用いられる半導体チップの性能は、ムーアの法則と呼ばれる経験則に従って3年に4倍のペースで高性能化(微細化)しています。


年々微細化する集積回路を製造する次世代技術として極端紫外(Extreme UltraViolet : EUV)光の研究が行われています。リソグラフィーで用いるEUV光は波長13.5 nmという極めて短波長の光です。本研究室ではこのEUV光の光源となるレーザー生成プラズマの研究を行っており、高出力・低デブリとなる光源の開発を目指しています。

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EUVリソグラフィーに高出力でクリーンな光源が必要とされている背景には、リソグラフィーを行うために必要な出力を得ること、露光システムに用いられるMo/Si多層膜反射鏡などの光学素子の長寿命化などがあります。これらの目的を達成するために、本研究室ではEUV光放射物理の解明やターゲットからのデブリ、帯域外光の計測・制御法の開発などを行っています。


現在は計測結果をもとに、デブリ・帯域外光放射の抑制を目的とした最小質量ターゲットを考案し、原理の実証に向けて実験・研究を行っています。ターゲットの供給法としては高繰り返しドロップレット生成やパンチアウトを行っており、EUVリソグラフィーの実現に向けて研究を進めています。


EUVに関して本研究室では主に以下のことを研究しています。


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<EUV光への変換効率の向上>



入力したレーザーエネルギーの何%がEUV光として出力されるのか?つまり「効率」がEUV光源の産業化にとって最も重要な要素です。我々の研究グループでは、入力するレーザーの照射強度や波長、パルス幅等の条件を変え、最も効率が高くなるプラズマ生成条件を解明しました。その一例を図1に示します。最近ではダブルパルス法と呼ばれる新しいプラズマ生成法を用いた、更に高効率なEUV光発生の研究を行っています。


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固体密度スズターゲットを用いた場合の、EUV変換効率のパルス幅及び照射強度依存性



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<温度密度計測>



EUVリソグラフィー用レーザープラズマ光源開発において、シミュレーション計算の結果を検証するためにEUVプラズマの電子密度・電子温度の2次元分布を計測する必要があります。


プラズマの電子密度は、プラズマ生成用レーザーと同期させたプローブレーザーを用いて干渉計を構築し、プラズマを透過したプローブ光の位相シフトを計測することによって計測することができます。位相シフトにはプラズマの電子密度情報が含まれており、電子温度分布を導出する事ができます。


電子温度の2次元分布を計測するために、プローブ光のプラズマ透過像計測を行ったものが図2に示すものです。プラズマに入射した光の吸収率はプラズマの電子密度、電子温度、電離価数の関数になり、電子密度は干渉計測により計測する事ができます。また、電離価数は理論モデルより決定できるので、生成したプラズマにプローブ光を入射し、その透過光を計測する事によりプラズマの電子温度計測が可能です。

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左が実験配置、右が実験によって得られた密度分布



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<帯域外光放射計測・制御>



レーザー生成プラズマからは、リソグラフィーに必要なEUV(13.5 nm 2%BW)光以外の波長の光も放射されます。そのような光を帯域外放射(out-of-band radiation)光といいます。特にリソグラフィー装置に用いられているMo/Si多層膜反射鏡は、波長13.5 nmの光のみならず波長130 nm以上の真空紫外光、紫外光、可視光、さらには遠赤外光に対しても高い反射率を有するため、プラズマから放射された広帯域の光はEUV光同様、露光装置内に伝送されます。


半導体リソグラフィーの分野では、帯域外光は主に2つに分類されます。1つは真空紫外/紫外光(波長130 ~ 400 nm)であり、もう1つは可視/赤外光(波長130 nm以上)です。EUV光によるリソグラフィーに用いられるレジストは真空紫外/紫外光に対しても感度を持つため、波長130 - 400 nmの光によりレジストが感光してしまいます。


波長400 nm以上の可視/赤外光に関しては、光エネルギーによる熱によりレジストが変形することが危惧されています。このような帯域外光の影響によりリソグラフィーの精度が劣化してしまいます。そのため、帯域外光がプラズマからどれだけ放射されているのかを評価し、その抑制法を見つけることが必要となります。図3にターゲットの形状の違いによる帯域外光の発光を示します。


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平板型ターゲットと球型ターゲットを照射した場合のそれぞれの発光



平板型のターゲットの場合、照射したレーザーエネルギーが広範囲にわたって平板表面上を熱し、熱せられた平板表面から帯域外光が放射されます。一方、球型ターゲットは燃料が少ないためにレーザーエネルギーはほとんどEUV放射に使われ、帯域外光は出にくくなることがわかりました。


本実験でターゲットの量をEUV放射に最低限必要な量にすることで帯域外光は減るということが明らかになりました。この結果を元に帯域外光の抑制方法をさらに追及し、EUVリソグラフィーの要求値を満たすターゲットの開発を進めています。


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<デブリ計測と抑制>



EUV光源に要求されている条件の一つが、クリーンな光源であるということです。「光源がクリーンである」ということは、言い換えれば「光源から光以外の何者も飛んでこない」ということです。しかし、プラズマは気体よりも更に高温であるため、生成された途端、急激に膨張を始め、周りに飛び散ります。イメージとしては小さな爆弾のようなもので、プラズマができると周囲にあるものを巻き込んでさまざまなもの(原子やイオン、微粒子など)を放出します。この原子、イオン、微粒子等を総称してデブリと呼んでいます。このデブリがEUV光の転送ミラーに付着するとミラーの反射率は激減してしまいます(ミラー上にデブリが1 nm堆積すると反射率は10%低下します)。


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デブリの発生原理



このデブリの発生をできる限り抑えるため、さまざまな研究が行われています。私たちの研究室では「最小質量ターゲット」について研究しています。最小質量とは、光源に供給するスズをEUV放射に必要最少量に抑えるという意味です。こうすることで供給したすべてのスズがプラズマ化され、プラズマの膨張に巻き込まれて生成されるデブリはなくなると考えられます。これまでの研究により、最小質量ターゲットを用いることによる大幅なデブリ抑制効果が証明されています。


EUV_debris たとえば、スズを右図の(a)のように大きな板状で供給した場合と、(b)のようにレーザーのあたる範囲にあわせて薄く供給した場合に分けて中性のデブリ計測を行ったところ、同じだけのEUV光が放射されるにもかかわらず、(b)の中性のデブリの発生量は(a)のわずか1%まで抑制されることを実証しました。このときの実験においては中性のスズのみが観測できる手法を用いたので、ガラス板からのデブリは考慮されていませんが、スズの供給範囲を限定することでデブリが大幅に抑制されるということは明らかです。


このように、レーザーが直接吸収される範囲のみにスズを供給するということがクリーンな光源には要求されます。この条件を満たし、かつ連続供給に適したターゲットの供給方法が次で述べるドロップレットターゲットと呼ばれるものです。


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<高繰り返しターゲット供給>



デブリの発生を低減する最小質量ターゲットを高速に供給するものとしてドロップレットターゲットが考えられています。ドロップレットとは球状のターゲットが数珠繋ぎ状に供給されるもののことです。高速供給が求められている理由は、露光装置に要求される出力を得るためです。本研究室では直径200 umの球状ターゲットを20 kHzの繰り返し速度で供給を行っています。

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ドロップレットターゲット生成装置(左)とドロップレットターゲット(右)



左が真空チャンバーに取り付けたドロップレットターゲット生成装置。右がこの装置を用いて生成したドロップレットターゲットです。1秒間に2万個、1つの大きさ約200 umで生成を行っています。今後は供給速度の高速化やターゲットの最小質量化、ダブルパルス照射による変換効率の向上、高繰り返しレーザー照射時における問題の解決などを行っていきます。

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