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核融合研究が先導したEUVリソグラフィ光源開発

西村 博明(昭和50年電気)


大学を選ぶとき、「将来はエネルギー関係の仕事をやりたい。これからの時代は原子力。しかし、まだ、そこまで選択肢を絞るのはまだ早い。大学に入ってから決めよう。ならばエネルギーで必要な知識と技術は電気だ」と気持ちを固め、大阪大学工学部電気工学科を選びました。昭和46年(1971)のことです。卒業研究では、躊躇無く、山中千代衛先生の研究室のレーザー核融合研究に手を挙げました。中身はレーザー開発やプラズマ発生・計測です。私は、効率が高く実用化には有望とされた炭酸ガスレーザーによる核融合の研究を選びました。修士進学後も引きこの研究を行いましたが、納得のいく答えに行き着かない。手探りの日々が続きました。当初は修士課程修了して企業に就職、と考えていたのですが、方針転換、博士課程に進学して研究続行を決めました。 
炭酸ガスレーザーは波長10.6μmの遠赤外線ですから、臨界密度は1019cm-3、大気密度です。このため、固体領域までエネルギーが届かない。炭酸ガスレーザーは核融合に適さないのでは?この思いを確認するため、波長が1.06μmで、大出力化が容易なガラスレーザーやその2倍、3倍高調波レーザーも用い、同一条件下で様々なターゲットに照射して、ターゲットのアブレーション(剥離)圧力やX線への変換効率などを詳しく調べ、エネルギー輸送を定量的に評価しました。その結果、炭酸ガスレーザーは結合係数が低く核融合には適さない。代わりに波長0.5μmのグリーン光や0.35μmのブルー光が適することが見えてきたのです。かくして、炭酸ガスレーザーは核融合の舞台から消えました。一方、金のような高Z材料に短波長のレーザー光を照射すると波長1-10nmの軟X線が80%もの高い変換効率で放射されることが発見されました。こうして、このX線を燃料球に照射する「間接照射方式」の研究が開始されました。私は、X線放射物理や絶対スペクトル計測、そしてキャビティ中のX線閉じこめなどの研究を行いました。
こうした中で、平成15年(2003年)から5年間にわたり文部科学省リーディングプロジェクト(以下LP)「極端紫外(EUV)光源開発等先進半導体製造技術の実用化」が多数の関連企業を巻き込んで開始され、大阪大学はこの研究組織の推進役を、私は協力研究組織におけるプラズマ実験を横断的に統括する役割を仰せつかりました。マイクロチップの量産には光リソフラフィ技術が欠かせません。この工程で用いる光源の波長がもはや長すぎて、ムーアの法則が予見する半導体集積の細線化が達成できない。紫外線よりさらに短波長の光源を開発し実用レベルに引き上げたい。これがLPの目標でした。この問題が表面化するはるか以前(1980年)、すでにNTT木下らは放射光から得た波長13nmのEUV(極端紫外)光でnm級の回路をもったチップが量産できることを実証していました。放射光ではパワー不足。数100W級のEUV光源がすぐに欲しい、というのがインテルやサムソンなど世界の半導体業界の強い要望でした。
実は、私はLP開始の前すでに経産省の支援を得てレーザープラズマEUV光源の開発研究に着手しており、「間接照射方式」の研究で培ったプラズマ発生、分光計測そして理論・シミュレーションという研究資源が大いに活用できることに気づいていました。開始当初1%であったEUV変換効率は翌年には3%、さらに2年後には5%と年々更新され、我が国は光源開発において常に世界の牽引役であり続けることができました。さらに興味深いのは、EUVプラズマ加熱には炭酸ガスレーザーが最適であることが明らかとなったのです。炭酸ガスレーザーはエネルギー注入領域の密度が低いため、プラズマによるEUV光の自己吸収が抑制できたからです。これ以外にも様々なアイデアが盛り込まれ、我々の研究は「二波長ダブルパルス照射法(下図)」として結実しました。本方式は大阪大学が保有する国際特許として登録され、世界の標準方式として広く用いられています。

二波長ダブルパルス照射法

レーザー核融合は実用化までに多くの課題を解決する必要がありますが、一方で、この研究のスピンオフは、産業の血液と呼ばれる半導体製造のイノベーションとしてお役に立とうとしています。

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