大阪大学 レーザー科学研究所

施設FACILITIES

LFEXペタワットレーザー

背景

FIREX(Fast Ignition Realization Experiment)第1期(FIREX-1)では加熱レーザーを増強し、核融合温度である5-10 keVまで燃料を加熱すことを目指す。そのための加熱レーザーとしてLFEXレーザー[2]の建設を2003年度より開始した。要求される性能は出力10 kJ/1~10 ps、波長1.05μm、コーン内に集光されるスポット径は30μmφが期待される。LFEXレーザーは世界でも他に例を見ない超高強度レーザーであり、核融合のほか相対論的プラズマ相互作用やレーザー核物理などへの応用も期待されている。

発振器部及び増幅部[3]

十分なスペクトル帯域をもつフェムト秒ファイバー発振器(90fs、100MHz、電気同期)からの種光は、3段の光パラメトリック増幅(OPCPA)で増幅され、チャープ光出力として40mJ以上、スペクトル幅6nmを6Hzで得る。その後口径を10mmから25mmに拡大して2台のガラスロッド増幅器(口径50mm)により4パス増幅する。さらに4ビームに分岐し各ビームを各々2台のロッド増幅器で増幅後、主増幅器に入射する。主増幅器はディスクスラブ(LHG8, 46cm×81cm×4cm)による2×2アレイ構造のユニットを8段直列で構成されている(図1)。最大口径は40cm×40cm、ビームサイズ35cm×35cmである。

終端反射鏡で折り返されたレーザー光は4パス増幅後にファラデー回転子へ向かい、偏光回転を行う。薄膜偏光子と組み合わせて光アイソレータを構成し、集光照射されたターゲットからの反射光から増幅器を保護する。

図1 LFEXの主増幅部の構成

ビーム伝送圧縮及び集光部

LFEXのパルス圧縮器(リアエンド)・集光装置の全体図を図2に示す。フロントエンドからの2×2アレイ状ビームを縦4段に再構成し、ダイヤモンド型パルス圧縮器[4,5]に入射する。グレーティングへの入射角が72°で波長分散による広がりも加わるため、ビーム毎に42×91cmの大型回折格子(1740grooves/mm)を2枚用いた組み合わせ回折格子を用いた。このパルス圧縮器は組み合わせ回折格子を両側から使う像反転型であるため、回折格子の周期誤差やアライメント誤差が自動的に相殺される。パルス圧縮されたビームは2×2アレイ状に再構築され、OAP(軸外し放物面鏡、104 x 89 cm、F/~5)で集光する。2008年2月に1ビームのFirst lightを得たのち、4ビーム構成への建設が進んでいる。2012年6月現在では2ビーム構成で2.2psのパルス幅、オンターゲットで約50µmの集光径が得られている。

図2 LFEXのパルス圧縮器・集光装置の構成

光学素子

回折格子は42cm角の開口の幅と約1.8 mの幅長さを達成するため、2枚からなる組み合わせ回折格子が用いられる。大口径の光学素子製造に必要な基盤技術の一部を述べる。
上記のサイズで波長約1μmに適用できる波面計測器(干渉計)を、日米のベンチャー企業で開発した。測定出来る最大サイズは直径70 cmであり、波長1μmの干渉計では世界最大級である。
光学素子の基板は熱膨張の小さい石英を用いた。膜の割れ(クレージング)防止のために、低温成膜でも付着力の強い膜ができるイオンアシスト蒸着(IAD:Ion-Assisted Deposition)を採用した蒸着装置を日米で共同開発した。
集光鏡は89cm×104cmの軸外し放物面鏡であり、良好な集光特性が得られている。
組み合わせ回折格子の開発では、走査干渉露光法を開発採用した。この露光法では、回折格子の溝密度を従来法より1桁高い精度で作製でき、また従来法より大きな回折格子を作成できる[6]。この手法では、石英基板の研磨とIAD成膜は国内で行い、ルーリング(溝形成)は米国のベンチャー企業で行うという日米連携で技術が確立された[7]。量産に成功した回折格子の写真を図3に示す。この回折格子は世界最大のサイズと従来より1桁高い溝密度の再現性、最大回折効率98%、高い損傷耐力などを達成している。

図3 世界最大(104 x 89 cm)の石英基板誘電体回折格子

参考文献

  1. 中田 芳樹,白神 宏之,河仲 準二,實野 孝久,宮永 憲明,オプトロニクス vol. 31, 130 (2012).
  2. N. Miyanaga, et al., EDP Sciences, J. de Physique IV 133, 81 (2006).
  3. J. Kawanaka, et. al., J. of Phys.: Conf. Series, The fifth International Conference on Inertial Fusion Sciences and Applications (IFSA 2007), 112, 032006  (2008).
  4. H. Habara, et al., Opt. Lett., 35, 1783 (2010).
  5. M. C. Rushford, J. A. Britten, C. P. J. Barty, T. Jitsuno, K. Kondo, N. Miyanaga, K. A. Tanaka, and G. Xu, Opt. Lett. 33, 1902 (2008).
  6. M.H. Lim et al.,  J. Vac. Sci. Technol. B 17, 2703 (1999).
  7. 實野孝久、本越伸二、レーザ加工学会誌 12, 221 (2005).
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