大阪大学 レーザー科学研究所

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ようこそレーザー研へ! 南部先生 着任インタビュー

2024年3月に南部誠明先生が助教として着任しました。現在の研究内容や、研究のやりがい・楽しさについて、お伺いしました。

 

現在の研究内容・テーマを教えてください。

原子が整然と並んだ結晶の中に、ナノメートル(1 cmの10000000分の1)という極めて小さなスケールで人工的に微細な構造を作りこむことで、これまでにない新たな機能を持つデバイスを実現するという研究に取り組んでいます。きれいに整った結晶中にあえて特異な構造を作りこむという、一見矛盾したように見えるプロセスが、実は革新的なデバイスの実現を可能にします。

例えば、私たちは光の色(波長)を自由自在に変えるデバイスの研究を行っています。この技術は「波長変換」と呼ばれています。微細な構造を作りこんだ結晶(デバイス)に特定の波長のレーザー光を当てると、その波長が別の波長に変換、つまり光の色が変わります。結晶の種類や作りこむ構造を工夫することで、これまで存在しなかった新たな波長のレーザー光を作り出すことができます。中でも私たちは、青紫色の光を深紫外(Deep Ultra-Violet:DUV)光に変換する研究を行っています。DUV光は波長が極めて短く、原理的に非常に小さなスポットに集光することができます。この特性を活かすことで、例えば高精度な半導体の微細加工や精密検査が実現できます。しかしながら、現在実用化されているDUVレーザー光源は、大型で高価なガスレーザーが主流であり、非常に高いランニングコストに加え、設置や運用に大規模な設備が必要です。このため、次世代のよりコンパクトで手軽なDUVレーザー光源が求められています。そこで私たちは、既に実用化している小型で高効率な青紫色レーザーの波長を変換することで、これまでのような大規模な装置を必要としない、指先サイズの小型で効率的なDUVレーザー光源の実現を目指しています。このような光源が実現すれば、産業および医療分野での幅広い技術革新に貢献できると考えています。

さらに別の研究テーマとして、海外の研究機関(ELIーNP等)と協力して次世代の超大型パワーレーザー用の「壊れない」光学素子の研究を行っています。超大型パワーレーザーは高密度、高温、高圧力といった極限状態を地上で実現する唯一の方法であり、この極限状態を用いて例えば巨大地球型惑星の内核にのみ存在するといわれているスーパーダイヤモンドをはじめとした新物質状態および新材料の探索が可能です。このような超大型パワーレーザーを実現するには、そのパワーに耐えうる壊れない光学素子が必要不可欠です。このような素子は、ナノメートルオーダの構造を巧みに作りこむことで実現が可能ですが、そのためには物理現象の深い理解や緻密な設計が求められます。私たちは、これまでの大型パワーレーザーの常識を覆すような、世界最高品質の超高耐力光学素子の実現に向けて、日々研究に取り組んでいます。

 

研究の成果としては、どのようなものがありますか。

これまでの研究成果として、例えば、青色発光ダイオード(Light-Emitting Diode:LED)の材料として広く使用されている窒化ガリウム(GaN)と呼ばれる半導体の結晶に、光を強く閉じ込める微細な構造を作りこむことで、赤色のレーザー光を青色へ変換しました(図1)。これにより、新たに提案した波長変換デバイスの動作原理の実証に成功しました。また、大阪大学で独自に育成しているホウ酸系光学材料であるSrB4O7(SBO)という結晶を用いた波長変換デバイスを作製し、既にDUVレーザー光発生にも成功しています。このように新規結晶と新規構造を組み合わせた全く新しい波長変換デバイスを開発し、超小型かつ高効率なDUVレーザー光源の社会実装に向けて研究を進めています。

図1 GaN微小共振器型波長変換デバイス

 

研究のやりがい、楽しさ、面白さはどのようなところに感じますか。

自分のアイデアを形にできることに研究の楽しさを感じます。どのような結晶にどのような構造を与えれば良いかを考えるところから始まり、実際の設計、作製、そして光学特性評価までを一貫して自分自身で行えることに大きなやりがいを感じます。長い時間をかけて作り上げたデバイスが、思い通りに動作した瞬間の喜びは、何事にも代えがたい特別なものです。

 

これから研究者を目指す後輩たちに、メッセージをお願いします。

研究を「楽しい」と思えるように、まずは様々なことに一所懸命にチャレンジしてみてください。そして、何か新しいアイデアが思い浮かんだら、躊躇せずに研究室の先生やメンバーに相談し、実際に試してみることが大切だと思います。些細なアイデアについて議論できる環境は非常に貴重で、大きな成長につながると思います。大阪大学のレーザー科学研究所には、まさにそのような自由に議論し合える素晴らしい環境が整っています。将来、皆さんと一緒に新しい発見を生み出すことができる日を心から楽しみにしています。

 

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