大阪大学 レーザー科学研究所

学生の方へEDUCATION

研究者インタビュー Agulto Verdad Canila先生

 

 

現在の研究内容について教えてください。

私は、「テラヘルツ波」と呼ばれる特殊な電磁波を使って、新しい材料(エマージングマテリアル)を研究しています。テラヘルツ波はあまり知られていませんが、電磁波の一種であり、マイクロ波と赤外線の間に位置しています。たとえば、X線で骨を確認したり、可視光が顕微鏡で使われたりするように、テラヘルツ波を使うことで、物質の内部特性を非破壊で調べることができます。このように光を使って物質を研究する方法は「分光法(スペクトロスコピー)」と呼ばれています.

新しい技術や応用を開発するためには、材料がどのようにふるまうのかを深く理解することが必要です。私の研究では、主にテラヘルツ分光法を用いて、現代の電子機器の基盤となる「半導体」を対象にしています。特に近年では、人工知能(AI)の進展に伴い、より高性能で省エネルギーな半導体の重要性がますます高まっています。テラヘルツ分光法を用いることで、半導体内部で「電荷キャリア(電子やホール)」がどのように移動しているか、つまり電流がどのように流れているかを調べることができます。こうした知見は、将来的により高速なコンピュータ、より高感度なセンサー、より効率的なエネルギー機器の開発に役立つと考えられています。

 

この研究テーマを選んだきっかけ・理由を教えてください。

修士課程のときに、材料科学に興味を持つようになりました。材料科学は、材料の構造、特性、そして応用との関係を研究する学際的な分野であり、材料を理解し、改良し、さらには新たに創り出すことを目的としています。私はまず、酸化亜鉛という半導体材料に取り組みました。この材料は紫外線を発する性質があり、その発光特性をどのように制御できるかを研究していました。当時は、自分で材料を合成・最適化するだけでなく、紫外線や可視光を用いたフォトルミネッセンス分光法によってその性質を評価していました。これが、半導体に対する分光研究の始まりでした。その後、異なる分野の研究者との共同研究を通じて、テラヘルツ分光という新たな手法を知ることができました。これは、同じ材料を違う「フィルター」を通して見るようなもので、観察手法が変わると見える側面も変わってきます。テラヘルツ分光を使うことで、今まで見えていなかった材料の別の側面をとらえることができるようになりました。

 

研究の成果としては、どんなものがありますか。

共同研究者や共同開発者とともに、テラヘルツ分光法を用いて、酸化ガリウム、炭化ケイ素、窒化ガリウムといった次世代半導体の基礎的な物性のいくつかを明らかにしてきました。たとえば、半導体デバイスの開発において重要なパラメータである比誘電率を測定しました。また現在、テラヘルツエリプソメトリと呼ばれる新しい手法の研究も進めています。この手法では、半導体ウェハ上の材料特性を空間的にマッピングすることが可能です。特に、テラヘルツ波を透過しない不透明な材料の評価に有効であり、将来的には半導体産業での応用が期待されると考えています。

 

研究の苦労や、難しさはどんなところに感じますか。

私の研究で難しいと感じる点のひとつは、分光測定の実験装置の調整です。実験ではレーザー、レンズ、ミラーなどを使って光を特定の経路に導きますが、これらの光学部品を高い精度で配置・調整する必要があります。正しく扱えるようになるには、多くの時間と経験、そして根気が必要です。さらに難しいのは、使っているテラヘルツ波が目に見えないことです。可視光レーザーのようにビームの経路を目で確認することができないため、光の通り道が合っているかどうかを判断するのが難しく、装置の最適化には工夫が必要です。これは、ピントの合っていないカメラで写真を撮ろうとするようなものです。どんなに面白い被写体でも、レンズがきちんと調整されていなければ、写真はぼやけてしまいます。同じように、光学系が正しく整っていないと、得られる測定結果は材料の本当の性質を正しく反映しなくなってしまいます。

 

研究者を目指す後輩に、一言メッセージをお願いします。

研究者という道は、必ずしも人気があったり、分かりやすい進路だとは言えないかもしれません。でも私は、若い人たちにとってとても意義のある、価値のある選択肢だということを知ってほしいと思っています。私たちが今手にしている技術や知識は、過去の多くの研究者たちの地道な積み重ねによって築かれてきました。研究はリレーのようなもので、世代から世代へとバトンが受け継がれていくものです。だからこそ、次の世代を担う若い人たちに、そのバトンを受け取り、問いを立て、答えを探し続けてほしいと願っています。もし、ものごとの仕組みに興味があったり、「なぜ?」と考えるのが好きだったりするなら、研究という道はきっとあなたにとって面白いものになるはずです。

 

 

ページ先頭へ戻る